3次元スキャニング照射法と拡大ビーム照射法の違い
粒子線治療では、以前は「拡大ビーム照射法」が採用されていました。
現在では、「3次元スキャニング照射法」が主流となってきています。
「3次元スキャニング照射法」の開発により、治療時間の短縮化につながりました。
そこで、今回は「拡大ビーム照射法」と「3次元スキャニング照射法」の違いに注目してみます。
目次
まずはざっくりイメージ
拡大ビーム照射法と3次元スキャニング照射法をとてもシンプルに考えてみると、こんなイメージになると思います。
次の図では、照射に使用された全体量に着目しています。
拡大ビーム照射法のイメージ
まずビームを拡大し、
余分なビームをカット(水色)。
残ったビーム(黄色)を腫瘍に照射します。
3次元スキャニング照射法のイメージ
ビームを拡大せず、縦・横、深さ方向に動かして照射します。
カットされる部分がないため、ビームをほぼ100%使用できるようになり、利用効率が向上しました。
もう少し詳しく見ていきます。
拡大ビーム照射法
拡大ビーム照射法では、次のように、加速器からのビームを腫瘍よりも大きなサイズに広げ、
コリメーターで腫瘍断面の形状に合わせてカットし、
ボーラスで、腫瘍の最も深い部分の形状をつくり、
患者さんに照射していました。
出典:QST
これをもう少しわかりやすく図解してみました。
①でビームを拡大し、腫瘍サイズより大きくしています。
次に、コリメータで腫瘍断面と同じ形状にカット、
さらに、ボーラスで深さ方向に腫瘍と同じ大きさになるようにビームをカットしています。
これからわかるように、拡大照射法では、治療の度に、患者さん毎にコリメータとボーラスを作らなければなりませんでした。
治療の経過とともに、腫瘍が小さくなる場合も同様で、日々変化する腫瘍の形や位置に対応するには、コストと時間がかかりました。
このほか、患部を覆うように照射されるため、
上の図の赤色部分のように正常組織への照射が避けられず、複雑な形状の腫瘍への照射は難しい、という問題もありました。
そこで開発されたのが、「3次元スキャニング照射法」です。
3次元スキャニング照射法
3次元スキャニング照射法は、細いビームのまま、患部を塗りつぶすように照射する方法です。
腫瘍をスライスし、スライス平面上を塗りつぶした後、
手前のスライス平面を塗りつぶす工程を繰り返します。
出典:QST
こちらもわかりやすく図解してみました。
「3次元」からわかるように、X軸、Y軸、Z軸が登場します。
まず、上のように、腫瘍をスライスした後、
スキャニング電磁石がX軸、Y軸方向にビームを走査することで、スライス平面を塗りつぶしていきます。この時、ビームはXY軸に対して垂直になっています。
上の図では、赤丸がビームが照射された部分、白丸はまだ照射されていないことを示しています。
下のように、1つのスライス平面の照射が終わると、手前に移動し、次のスライス平面を照射していきます。
1つのスライス平面の照射が終わると、手前のスライス平面へ移りますが、この時、レンジシフタ(緑色)というアクリル製のエネルギー吸収材を使って深さ方向を調節します。
この繰り返しで、腫瘍を塗りつぶすように照射していきます。
もう少し立体的に図解したのがこちら。
動画はこちらから。
腫瘍の形に合わせて照射するため、拡大ビーム照射法では難しかった、複雑な形の病巣も照射できるようになり、
正常組織への照射を減らすことで、副作用軽減にもつながりました。
また、ビームを一旦拡大させて、必要な大きさにカットする工程がなくなったため、
コリメータとボーラスが不要になりました。
このため、日々変化する腫瘍の形や位置に対応可能となり、治療時間が短縮されました。
3次元スキャニング照射法のまとめ
3次元スキャニング照射法の特徴をまとめてみました。
- 複雑な形状の腫瘍に対応できるようになった
- 正常組織への被ばくが軽減した
- 治療時間が短縮化された
- コストが削減した(ボーラス、コリメータが不要)
- ビームの利用効率が向上した
しかし、呼吸によって動く臓器に照射すると、ビーム照射中に標的部位が移動し、異なる位置を照射してしまうという問題があり、呼吸により動く臓器は治療できないのが課題でした。現在では動く臓器への照射も可能となっています。こちらについてはまた別の機会に触れたいと思います。
<参考>
Isotope News 2018.2 「重粒子線がん治療装置の小型化研究ー普及への展望ー」古川卓司
医学のあゆみ Vol.252 No.3 2015.1.17 p245
放医研ニュースNo.124 「次世代重粒子線照射システムの開発研究」