【レビュー】「多様性の科学」を読んだ感想・書評|視点が変わる1冊・面白くて止まらない

 

この本は最近読んだ中では群を抜いて面白かったです。

「多様性」という聞きなれた言葉をタイトルに使った本が、なぜこれほど興味深く、ページをめくる手を止められないのか。

この本は、私が「多様性」について抱いていた印象を大きく変えてくれました。

 

この本は次の方にとてもおすすめです。

 

・生産性の低い会議で悩んでいる人

・自分と意見の合わない部下を疎ましく思っている人

・既存のものの見方や考え方を変えたい人

・チームの生産性を上げたい人

・イノベーションの機会を創出したい人

・ダイエット法、食事療法の情報の波でおぼれている人

・爆伸びする企業を見つけたいと思っている投資家

 

 

組織論の本なのに、個人個人にいろいろなヒント、目から鱗が落ちる瞬間がたくさんあるのです。

この本の言わんとしていることをまとめると、

集団の知恵を発揮するには多様性が欠かせない。
多様性が社会、企業、人類の発展のカギとなる。

 

ということになりますが、たとえ組織に身を置いていなくても、

同時多発テロ、キャリー付きスーツケースの歴史、グッチが成功してプラダが失敗した理由、かつての繁栄の場ルート128がシリコンバレーになれなかった理由など、

多様性を重んじなかったばかりに失敗した事例は、まるで映画を見ているようでした

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

マシュー・サイド
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こうした事例を読み進めるにつれ、企業、政治、コミュニティの活動や取り組みに対して、これまでと異なる見方をするようになるかもしれません。

さらに、過去の失敗事例・成功事例をもとに、今まだ成果を出していない団体や企業についても、成功の「予測」ができるかもしれません。

たくさんの気づきがあることは間違いありません。

CIAはなぜ同時多発テロを防止できなかったのか

2001年に起きた同時多発テロを未然に防げなかった理由として、

・CIAが明らかな兆候を見逃した

・テロ計画を未然に察知するのは至難の業だ

 

という2つの議論が続いていることを本書は指摘したうえで、全く異なる結論を導いています。

それは、人材の偏りでした。

 

CIAに採用される職員は、成績抜群の優秀な人材ですが、そのほとんどが、男性・白人・アングロサクソン系・プロテスタントなど同じ特徴を持っていたとされます。

こうした同じ特徴の集団であったCIAには、ムスリムに詳しい人材はいないに等しく、重大なサインを見逃す結果になりました。

1996年にビンラディンがアメリカに聖戦を宣言した映像には「洞窟」が映っていますが、洞窟はムスリムにとって神を象徴する場であるという重要なメッセージがこめられていたと指摘されています。

つまり、ムスリムが見れば事の重大性と脅威がわかる映像ですが、イスラム教になじみのない人や当時のCIAには「時代錯誤」で「脅威になるとは思えない相手」にしか映らなかった可能性があります。

本書では次のように書かれています。

「ビンラディンが伝えたいメッセージは明らかだったが、それに合ったレンズを通して見ない限り何も読み取れなかった

 

CIAには高度が英知が集まっていましたが、集団レベルでは致命的な「盲点」があったということです。

そして、集団の知識・考え方に偏りがある場合、自分たちの「盲点」に気づくことも至難の業といえます。

無知な集団と賢い集団【図解】

CIAが多様性を欠いていた点について、本書では非常にシンプルに図解されていました。

上の図が当時のCIAを表しています。

1人1人の人材はいわゆる「高スペック人材」でしたが、同じような経験・知識・バックグラウンドの人が集合しても、集団全体でのものの見方・考え方に広がりはでませんよね。

著者は「無知な集団」について、クローンの集団だと表現しています。

 

無知な集団に対し、幅広いものの見方・考え方を有しているが下図の「賢い集団」です。

各人材で、若干の重なりはあるものの、多様なバックグラウンド・知識・視点・考え方をもった人の集まりですので、ある人に見えない「盲点」にほかの人が気づく可能性があります。

そして、最初の図で書いた無知な集団の場合、問題に気づかせにくくするもう1つのトリックがあります。

「居心地の良い」集団の罠

同じようなバックグラウンド・知識・視点・考え方の人が集まる集団では、「共感」と「同調」による心地の良さ、居心地の良さがあることは容易に想像できます。

例えば、政治的信条として右寄りの人は、右寄りの集団で意見を交わすことが心地よく、居心地よく感じるでしょう。逆もまた同様です。

反対に、メンバーのバックグラウンド・知識・視点・考え方が異なる場合、メンバー間での議論には摩擦が生じることが想像できます。

なんでもオウム返しに同意、賛同しあう集団と違い、異なる視点から意見が飛び出すため、議論には労力を伴います。しかし、視野が広がり、見えなかった「盲点」に気づける可能性は高まります。

 

こうした点から考えると、

集団・チームで難問や課題に挑むときに大切なのは、問題そのものをさらに精査することではないと本書は指摘します。

代わりに、

・自分たちがカバーできていないのはどの分野か?

・無意識のうちに盲点を作り出していないか?

・自分たちの集団がクローン集団になっていないか?

 

と、一歩下がって考えることだといいます。

 

こうした集団の画一性にひそむ盲点に気づいたスウェーデンの町議会が、何十年も続いていた主要道路⇒歩行者道路の順に進めていた除雪作業を、歩行者道路⇒主要道路に変更した事例が紹介されています。

男性ばかりで構成される議会の偏りを調整し、ベビーカーや車いす、自転車で1日に数往復する女性の視点を加えた結果、負傷者数がドライバーの3倍以上であった歩行者の負傷事故を減らし、経済損失を抑えることができたといいます。

意見を出しやすい組織にする工夫

会議で自分の意見を言えなかった、言いづらかった。

 

企業や団体に所属する人ならこのような経験はあると思います。

この本で興味深かったのが、会議など、大勢が参加する場で、適切・効率的に意思決定するヒントが書かれていることです。

 

会議など複数人が議論する場で、自分の意見を言うのをためらった経験のある方は多いと思います。

たとえば、一人一人順番に意見を述べるとき、2人以上同じ意見が出ると、もともと言おうと思っていた意見とは異なる意見を言ってしまうことがあります。

これは集団がクローン化する事例の1つとされています。

心理学者ソロモン・アッシュ氏によると、他の人と同じ意見を言うのは、それを正しいと思っているからではなく、自分が異なる意見を言って、「和」を乱す人間だとみなされたくないという、同調傾向によるものだそうです。

研究によると、一人または二人の人間が主導権を握ると、その集団の意見は抑圧される傾向があるようです。多様な人が参加しているにも関わらず、主導的立場にいる人物に対し委縮し、発言をためらい、結果として主導的立場の人物が正しいと思う意見、視点が強化されていきます。

 

この本のメッセージは、「集合知の発揮には多様性が欠かせない」となりますが、さまざまな人間が集まればいいわけではないこともメッセージとして伝えています。

主導的立場にいる人間に、いかにして自分の視点、意見を臆せず言えるようにするか、「情報の共有」と情報を共有しやすい環境(=意見を言いやすい環境)も大切であると指摘されています。

 

情報が共有されなかったために起きた悲劇として、1996年のエベレスト大量遭難事故、1978年のユナイテッド航空の墜落事故が紹介されています。

より身近な例としては、抑圧的なリーダーに対し、意見を言う社員が冷遇されるという、企業でみられる事例ではないでしょうか。

企業やチームが優れた成果を出すには、「意見を言いやすい環境」が大切だということです。

意見の言いやすさが情報の適切な共有につながり、集団がクローン化するのを防いでくれるわけですね。

風通しの良い会社にしたい、人を大切にする経営をしたい、意見を出しやすい経営をしたいと思っているのに、組織の雰囲気があまりよくないと感じている経営者には、本書の第3章に大きなヒントが隠されていると思います。

 

マイクロソフトCEOのサティア・ナデラ氏の言葉が紹介されていますので、そのまま引用します。

「ほかの人間の意見-特に自分と食い違う意見-が表明されると自分の権威が損なわれると危惧するリーダーがいますが、彼らは間違っています。

人は自分の意見を言う機会をもらったほうが物事に積極的に取り組みます。そのほうがモチベーションが上がって創造力も発揮しやすくなり、組織全体の力が高まるのです」

知能の劣っていたホモサピエンスがなぜ生き残ったのか

この本は、企業に勤める人から、政策を決める立場にいる政治家、チームに不満を感じている人まで、さまざまな人に新たな視点をもたらしてくれると思います。

社員を抱える企業の経営者にもおすすめですが、広い視点では家庭・子育てにも共通することが多いと思いました。

大学の授業でケーススタディ本として活用してほしいとさえ思いました。

 

個々の興味深い事例から本書の最後では、人類の繁栄の土台にも多様性が関係していた話で締めくくられています。

脳が大きなネアンデルタール人が淘汰され、ネアンデルタール人より知能が低かったとされるホモ・サピエンス(人類の祖先)が生き残った理由はなぜなのか。

大きな脳が優れた知恵やアイディアをもたらすとは限らない事例を、壮大な人類史から紐解いていく最終章も、非常に読み応えがありました。

この本を読むことで、企業、社会、人類の繁栄に必要な多様性に思いめぐらすとともに、もっと自分と異なる人と接し、なじみのない考えや行動に触れる大切さに気付くことができました。

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織

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公開日:2022年8月12日