ボーイング(Boeing)の造形物を空中浮揚させながら造形する3Dプリンタの原理と全体像をご紹介!
先日、ネットで偶然目にした特許を見た時、思わず「うそ!」と叫んでしまいました。
造形物を空中に浮かせながら、造形していく3Dプリンタ。
本当に?どうやって?
そこで、今回はBoeing(ボーイング)の空中浮揚型3Dプリンタについてご紹介します。
目次
従来の3Dプリンタの課題
従来の3Dプリンタは、造形プラットフォームに造形物を一層ずつ積層し、一層分の積層が完了すると、プラットフォームを下げて次の層を積層する、ボトムアップ式が主流となっています。
多くの場合、造形の過程で造形物をサポートするためのサポート材も併せて造形し、造形が終了した後にサポート材を取り外しています。
しかし、サポート材を除去する過程で造形物を傷つけてしまったり、サポート材の除去が難しかったりするなどの課題があります。
また、造形物を安定させるために必要な造形プラットフォームとサポート材によって、造形できる幾何形状が制限されてしまう、という課題もありました。
そこで、ボーイングが開発したのがSF映画を思わせる3Dプリンタです。
発明の名称:Free-Form Spatial 3-D Printing Using Part Levitation
特許公開番号:US20180009158A1
冒頭で述べた通り、空中で対象物を浮遊させながら、造形していく方法です。
造形物は空中浮上しているため、サポート材も造形プラットフォームも必要ありません。
さらに、複数のプリントヘッドを使うことで、造形速度の向上も可能となりました。
この空中浮揚型3Dプリンタの応用分野は、航空宇宙、海洋、自動車などの産業です。
一体どんな原理なのでしょうか?
ボーイングの特許は、日本語訳が公開されていません(英語のみ)。とても興味がありましたので、特許を読んでみました。
Boeingの空中浮揚型3Dプリンタ
まず全体像を説明する前に、原文で気になった英文について書いておきます。
A feature of a part is formed by printing material into space. The feature may be formed by printing a nugget of material into space and then printing additional material onto the nugget.(US20180009158A1)
上記のfeatureが指すものは、FIG2~7でピンク、水色、黄色、黄緑で示した「52」の部分です。
これは3D-CADでいうところの「フィーチャ」を意味するものと理解しています。
英語サイトでの使われ方を調べてみると、
The second thing to keep in mind when designing a part to be 3D printed is wall thickness. Every 3D printing process can produce accurately features that are thin up to a certain point.
(略)
When you are creating a 3D model with intricate details, it is important to keep in mind what is the minimum feature size each 3D printing process can produce.
出典:https://www.3dhubs.com/knowledge-base/key-design-considerations-3d-printing
上記の内容から、3Dプリンタで造形する形状の”単位”のことを指していると考えました。
日本語にする場合は、「フィーチャ」でいいかと思いますが、本記事ではわかりにくいかと思い、あえて使っていません。
フィーチャについて理解したところ、次に気になったのが「nugget」という言葉。
The feature may be formed by printing a nugget of material into space and then printing additional material onto the nugget.(US20180009158A1)
貴金属の塊、溶接時の溶けた塊を意味する用語です。
FIG2の27がnuggetです。
つまり、造形する物体の単位(フィーチャ)の最初の部分、種になる部分のイメージ・・・ですが、今回は突っ込んで調べていません。
さて、全体像の話に戻ります。
initial nugget 27を含む材料がプリントヘッドから吐出され、ここに次々と材料が吐出されて、造形されていきます。この時、造形物は浮上力によって空間に浮遊しています。
材料が造形物に吐出され、付加されていくにつれ、当然のことながら、造形物が重くなりますので、システムによって浮上力を調整しています。浮上力を調整することで、造形物の重量増加を打ち消して、造形物を所望の位置に維持します。
造形物にさらに材料を付加していくために、所望の位置に造形物を回転させます。造形物に対し、別のプリントヘッドから材料を吐出して、造形していきます。
これを図解したのがFIG2~7です。
initial nugget 27に対して、新しい材料25を吐出します(FIG3)。
次に、造形物を回転させ(FIG4)、次の材料を吐出します(FIG5)。FIG5を見るとわかりますが、FIG3とは異なるプリントヘッドから材料を吐出しています。
造形物を再度回転させ(FIG6)、2つのプリントヘッドから同時または連続的に材料を吐出します(FIG7)。ここでは3つのプリントヘッドを使っていますが、さらに多くのプリントヘッドを使うこともできます。
つまり、空中浮揚させて、望みの位置に回転させながら、複数のプリントヘッドから材料を吐出させていくわけですね。
これはチョコレートフォンデュのイメージに似ていると個人的には思っています。
型に流すチョコレートに対して、空中でチョコレートをコーティングできますよね。
それでは、どのように造形物を浮揚させるのでしょうか?
ボーイングの特許では主に音響浮揚と磁気浮上という2つの方法により、空中浮揚を実現しています。
音響浮揚
音響浮揚というのは、音の力を利用して物体を浮かせることをいいます。
下の図のように、下に振動子(Transducer)、上に反射器(Reflector)を配置します。
出典:https://science.howstuffworks.com/acoustic-levitation1.htm
音場を発生させると、入射波と反射波が重なり合って合成波ができます。
上の図では、黄緑色が入射波で、点線の水色が反射波です。
この時の入射波と反射波は、振幅、波長、周期が同じですので、合成波は定常波になります。
定常波というのは、場所を変えずに縄跳びした時のように、その場で止まって動かない波をいいます。
これに対し、走りながら縄跳びするのは入射波や反射波のイメージに近いですね。
そして、定常波の節の部分で、物体が浮揚する、という仕組みです。
節とは上の図のように、定常波で全く動かない部分のことをいいます。山に対する谷の部分ですね。
ボーイングの特許では、放射器と反射器は、それぞれがペアとなり、互いに対向して配置されています。放射器と反射器で囲まれる空間の真ん中に物体が浮遊しています。
図では、放射器をピンク色、反射器を黄色にしています。
各放射器があらかじめ設定された周波数で振動し、様々な音波を放出します。この音波が空間を通過し、対応する反射器で反射されて反射波となります。
放射器と反射器の1対のペアを拡大した図がこちら。
ここで、上に反射器がないと、音波は下から上へ一方向に発振され、物体はどんどん上に動いてしまいます。
物体を止めるために、何らかの力で止めてあげる必要があります。そこで、反射器で音波を反射させ、反射器で反射された音波と放射器から発振された音波がぶつかり合い、打ち消し合う部分に物体を置くと、うまく空中で静止してくれるというわけです。
このように複数の波が重なり合って、強まったり(腹の部分)、弱まったり(節の部分)する現象を波の干渉といいます。
上記で述べた通り、ボーイングの3Dプリンタでは、
放射波と反射波が互いに干渉し合い、1つ以上の節を持つ定常波ができます。
節72で発生する音圧の力は、造形物22に作用する重力と振幅(大きさ)は同じですが、力が作用する方向が異なるため、節72の部分で造形物が止められ、浮遊します。
音波の振幅、周波数、向きを変えることで、あらゆる位置、向きに節72を動かしたり回転させたりすることが可能となり、このようにして造形物の位置や向きを変えています。
磁気浮上
磁気浮上はリニアモーターカーでも利用されていますね。
磁力を利用して物体を浮かせる方法です。
ボーイングの特許では、この原理を3Dプリンタに応用し、磁石と磁性素材からなる造形物との間に発生する反発力を利用して、造形物を空中浮揚させています。
磁気浮上を利用する場合、材料25は強磁性体、常磁性体、反磁性体としてもよいとされています。
まず、空間の下に配置された磁石74(永久磁石または電磁石)が第1の磁場76を発生します(ピンク)。
次に誘導される第2の磁場78が第1の磁場76に反発するために、造形物22が浮遊する、という仕組みです。
つまり、空間24にある造形物22の下に磁石74を配置し、磁石と造形物との間に重力に匹敵する反発力を発生させて、造形物を空中浮揚させているわけですね。
原文にはまだ理解できていない箇所もありますが、とても興味深い特許でした。
これは最初に公開されたUS9908288B2を基にして作られた動画だと思います。
※アイキャッチ画像はこの動画より引用させていただきました。
今後は日本の特許のほか、米国特許、中国特許など、国別に色々な特許もご紹介していきますので、楽しみにしていてください!!
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