【心筋機能再生に挑戦】iPS細胞を用いた心筋シートが実現する医療【心臓の再生医療】

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細胞シート工学のフォーラムが今月開催されます。

参加に先立ち、心臓の再生医療における細胞シートの研究内容をまとめました。

心臓治療での細胞シートとしては、テルモのハートシートが有名ですが、ネイチャーから早期承認を痛烈に批判されるなど、詳細が気になります。

最新の情報はフォーラム当日に確認してくる予定です。

今回は心臓再生における細胞シートの研究概要をご紹介します。

岡野光夫先生が打ち出した細胞シート工学

細胞シートとは、基材上で細胞がコンフルエントな状態(細胞同士が増殖して密着した状態)になった後、1枚のシートとしてはがしたものをいいます。

以前はタンパク質分解酵素などを使ってはがしていましたが、東京女子医科大学の岡野光夫先生が開発した特殊な培養基材を使うと、温度を変えるだけで細胞をはがすことができます。

この手法を、細胞シート工学といいます。

温度を変えると細胞をはがせる理由

この培養基材には、温度応答性ポリマーであるポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)が表面に修飾されています。

出典:http://www.fbi-award.jp/sentan/jusyou/2003/ebara/index.htmlを改変

このポリマーは約32℃で物性が変化します。32℃以上(高温側)では、細胞が接着するのに適した疎水性になり、32℃以下(低温側)になると、細胞が接着しない親水性に変化します。

つまり、32℃以上では細胞は基材に接着しており、32℃以下に温度が下がると、細胞が基材からはなれる仕組みです。

トリプシンのようなタンパク質分解酵素を使う必要がないため、細胞と細胞とが結合した状態で回収できるわけですね。生体組織にも良好に付着します。

細胞シートは下記のように、角膜、食道、心臓、詩集、軟骨などさまざまな疾患で治験・研究が行われています。今回は、心臓の再生医療における応用について注目します。

出典:「日本発・世界初の「細胞シート工学」技術による再生医療」を改変

心臓治療への細胞シートの応用

細胞シートの心臓治療への応用には、大きく分けて、

・筋芽細胞を細胞シートにしたもの

・心筋細胞をシートにしたもの

の2つがあります。

心臓の再生医療における細胞シート

筋芽細胞シート

心筋細胞シート

 

細胞シートは具体的には、

温度応答性ポリマーで修飾された培養皿で作製した細胞シートを、重ね合わせて積層化し、より厚い組織体にしたものです。

出典:心臓を作る!-細胞シートから補助ポンプ型立体心筋組織までの道のり-

心臓の表面に置いて貼るだけで、心臓に接着します。”移植”ではありますが、一般に言う移植のイメージとはちょっと違いますよね。

ばんそうこうみたいに貼る感じですね。

 

筋芽細胞シートは、患者の足の筋肉を使って作製します。

筋芽細胞とは、骨格筋が損傷したときに活性化される、基底膜に存在する細胞です。

活性化した筋芽細胞は増殖・分化し、最終的には欠損した骨格筋を補います。

つまり、筋肉のもとになる細胞ですね。

出典:信州大学分子細胞機能学研究室 骨格筋幹細胞と筋肉の再生を改変

 

筋芽細胞シートとして有名なのはテルモのハートシートです。

一方で、心筋細胞シートは、iPS細胞から心筋細胞を誘導・分化させてつくります。使うのは患者の細胞ではなく、他家細胞です。

研究の流れは、

筋芽細胞シート ➡➡➡ 心筋細胞シート

 

というように、研究の重心が心筋細胞シートに移ってきています。

この背景には、筋芽細胞シートと心筋細胞シートとで、メカニズムに違いがあることが関係しています。

筋芽細胞シートのメカニズム

ひとことでいうと、パラクライン効果です。

パラクライン効果とは、ある細胞から分泌された物質が、近くにある細胞に作用することをいいます(下図の赤枠)。

出典:courses.lumenlearning.com Module 7: Cell Communicationを改変

これに対し、
分泌された物質が分泌した細胞に作用することをオートクライン効果
分泌された物質が血管などを通じて遠方にある細胞に作用することをエンドクライン効果といいます。

筋芽細胞シートは、移植された細胞から分泌されるさまざまなサイトカインが心筋に働きかけて、心筋組織を修復すると考えられています。

しかし、大阪大学の澤芳樹先生は、失われた心筋組織を本格的に修復し、再生するためには心筋細胞の補充が必要と考え、iPS細胞由来の心筋細胞シートを開発しました。

つまり、重度の心不全を治療する場合、筋芽細胞シートには限界があり、心筋細胞そのものの補充が必要になるということですよね。

すでにブタの心筋梗塞モデルで、ヒトiPS細胞由来心筋細胞シートが心筋梗塞や新機能を改善することが証明されています。

心筋細胞シートのメカニズム

心筋細胞シートのメカニズムには次の3つが考えられています。

・シート自体が収縮し、作業心筋としてはたらく

・シートの拍動がレシピエント心臓に対して直接作用する

サイトカインを分泌し、血管新生を誘導して、血流を改善する

 

3つ目は筋芽細胞シートでもみられるパラクライン効果ですよね。

心筋細胞シートの場合、パラクライン効果だけでなく、直接作用する働きがあると考えられています。

上記メカニズムは、細胞シートを用いた心筋再生治療の現状と展望で述べられていることです。

これに対し澤先生は、こちらのインタビューでiPS細胞由来心筋細胞シートの効果について、パラクライン効果によるところが大きいとも話されており、はっきりしたメカニズムはまだ解明されていないのかもしれません。

筋芽細胞シートと心筋細胞シートの特徴をざっくりまとめたのがこちら。

 

ハートシートは心臓移植を待つしかない患者さんにとっては朗報となる治療法であり、2015年に条件・期限付き早期承認制度の第一号として製造販売が承認された、世界初の心不全治療用再生医療製品です。

しかし、ネイチャーは当時、ハートシートの早期承認を疑問視する意見を発表しました。ネイチャーが批判した理由は、わずか7例の治験で有効性を確認したことだったようです。

確かに、大阪大学の宮川先生がまとめた資料を見てみると、7例となっています。

出典:重症心不全に対する再生治療の現状と展望 宮川繁先生の資料

私が昔担当していた治験では、7例という少ない被験者数は聞いたことありませんでした(元CRAです)。

しかし、私個人の経験は限られたものですし、重症心不全の場合、心臓移植を待てないうえにドナーの数が圧倒的に足りないという問題があります。今確認している情報量では、ネイチャーの批判が正しいものなのか、なんとも言えません。

これについては機会があればまた取り上げたいと思います。

まとめ

心臓移植しか解決の術がない疾患をかかえる患者さんにとって、心筋細胞シートは心臓移植・人工心臓に替わる治療法です。

既存のハートシートは治療費が1470万円と高額であるため、誰もが受けられる治療法とはいえません。澤先生は、治療費を400-500万円まで下げたいとしています。

クオリプス社は、心筋細胞シートを1週間程度で作製する装置と、心筋細胞シートを生きたまま運べる装置の開発を進めています。

※クオリプスとは、澤先生の研究成果を事業化するために澤先生が設立された会社です。

臨床成果や費用、装置の面でさまざまな課題がありますが、日本発のiPS細胞を使った真の心筋再生治療が早期に実現することを願います。

2018年5月に、重症心不全患者を対象としたiPS細胞由来の心筋細胞シートの臨床研究が承認されました。今年夏ごろに1例目の手術を実施する方向で進んでいるようです。

今回は心臓再生医療における細胞シートについてご紹介しました。最新情報が入りましたらまたご紹介します。

 

※アイキャッチ画像の出典:世界を牽引する心筋機能再生への挑戦(澤芳樹先生資料)

【参考】

日本発・世界初の「細胞シート工学」技術による再生医療

細胞シートを用いた心筋再生治療の現状と展望

重症心不全に対する再生治療の現状と展望

再生医療製品の早期承認制度は果たして得策か

再生医療の変遷を日本再生医療学会理事長の澤芳樹氏に聞く―Vol. 1

再生医療の変遷を日本再生医療学会理事長の澤芳樹氏に聞く―Vol. 2

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