【骨再生を促進する人工骨】バイオ3Dプリンタで頭蓋骨・顔面骨再建へ(ノースウェスタン・イリノイ大学)

ノースウェスタン大学とイリノイ大学シカゴ校は頭蓋骨・顔面骨を再建するための人工骨を3Dプリンタで開発しました。

頭蓋骨・顔面骨の再建では、ハイドロキシアパタイトからなる人工骨を、患者さんの実際の骨欠損形状に合わせてあらかじめ作成し、使用することがありますが、難点は時間がかかること・加工が大変なことですよね。

この論文をポイントは次のとおり。

・頭蓋骨・顔面骨の再建に使う人工骨(シート状)を開発

・3Dプリンタでつくる

・人工骨の特徴は超弾性性質

・成分はハイドロキシアパタイト(90%)+ポリグリコール酸(10%)

・シート状人工骨をラットに移植したところ、12週間後に骨再生を認めた

 

人工骨というと、ごついイメージをもたれると思います。

今回の論文でいう人工骨はごつくありません。シート状で、スキャフォールドといって、骨を再生させるための土台(足場)を埋め込むイメージです。

骨そのものを埋め込むというより、骨の種を埋め込んで、骨を再生させるわけですね。カイワレ大根のイメージが近いかも。

本記事では「人工骨」で統一して説明しています。

👇論文全文は下記よりどうぞ。

>>Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

 



バイオ3Dプリンタ製人工骨で頭蓋骨・顔面骨再建へ

ノースウェスタン大学らが開発した人工骨は、次の2つの成分で構成されます。

・骨の主成分であるハイドロキシアパタイト

・生分解性のポリグリコール酸

 

ポリグリコール酸は生体内で分解する性質をもつため、縫合糸としても使われています。

この2成分からなる超弾性人工骨は3Dプリンタで作られ、フィットするように押すことができる展性の性質を持ちます。

展性について補足すると、金箔を思い浮かべるとわかりやすいと思います。

出典:ウィキペディア

金をたたくと、薄く伸びた金箔になりますよね。このように圧縮して伸びる性質を展性といいます。

研究チームは本来の骨の構造を模倣するために、上記2成分を使って、複雑なラティス構造のスキャフォールドをつくりました。

👇この形状なら3Dプリンタですぐ作れそうですね。

Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

このスキャフォールドをラット頭蓋冠欠損モデル(頭蓋冠をなくしたラット)に移植したところ、12週間後に骨再生を認めました。

四角いシートを直径8mmの円形にくり抜いたもの(写真・左下)をラットに移植しました。

Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone
Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

 

ちなみに使用しているバイオ3DプリンタはenvisionTECBioPlotterです。

envisionTEC

 

研究では、次の3群で比較しています。

試験群:ハイドロキシアパタイト+ポリグリコール酸で3Dプリントした人工骨を移植

陽性対照:ポリグリコール酸のみ使って3Dプリントした人工骨を移植

陰性対照:治療なし

 

8週、12週の時点でラットを安楽死させ、検体を分析したところ、ハイドロキシアパタイト+ポリグリコール酸を両方つかった人工骨は、そうでない対照群(ポリグリコール酸のみ、治療なし)と比べ、骨再生に有意な増加を認めたようです。

When normalized to the clinical standard of autologous grafts, cone beam com-puted tomography and micro–computed tomo-graphic analysis of bone formation 8 and 12 weeks after implantation showed a significantly greater volume of new bone formation with the Hyper-elastic Bone scaffolds when compared to the empty defect controls and poly(lactic-co-glycolic acid) hydroxyapatite-free scaffolds.(論文より)

 

 

Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

 

12週時点での骨再生をとらえたのがこちらの写真。

Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone
Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

 

下の写真が、今回開発した人工骨を移植したラットです。青枠で囲んだところが、骨再生を認めた部位。

上の写真はポリグリコール酸のみ使った対照群ですが、黄色枠内に骨再生を認めていますよね。しかし、試験群と比べてボリュームが少ないのが写真からわかりますね。

 

Similarly, poly(lactic-co-glycolic acid) scaffolds contained mostly fibrous tissue, with only small amounts of new bone formation at the defect margins. For the Hyperelastic Bone scaffolds, bridging of the defect by mineralized bone tissue was observed. The defect sites of the Hyperelastic Bone scaffold rats show fibrous tissue and membranous cellular compo-nents within the scaffold at 8 weeks and new bone formation at the defect margins at 12 weeks. New bone formation was observed surrounding the struts of the scaffold by 12 weeks.
(論文より)

 

移植した人工骨はやがて完全に新しい骨に置き換わるようです。

動物実験をへて、これから臨床試験に進むのでしょうか。3Dプリンタの医療での活用がますます進んでいますね。

 

【参考】

Three-Dimensionally Printed Hyperelastic Bone Scaffolds Accelerate Bone Regeneration in Critical-Size Calvarial Bone Defects

Scientists apply 3D printed hyperelastic bone to skull reconstruction

3D-Printed ‘Hyperelastic Bone’ May Help Generate New Bone for Skull Reconstruction

日本形成外科学会 頭蓋・顔面骨欠損

 

 

 

公開日:2019年8月20日