【医療ITエキスポ2019】VR/XR医療の最前線セミナー参加レポ
医療ITエキスポ2019で杉本真樹先生のセミナーを聴講してきました。
VR技術を医療の世界にもちこんだ型破りな外科医、杉本真樹先生です。
杉本先生のセミナーで一番印象的だったのが「自信」。
医療×VRの未来に対する自信です。
情熱/自信/確信すべてがそろったセミナーでした。
その魅力を余すところなくお伝えできないのが残念ですが、今回は理解できたところを中心にセミナーの概要をお伝えします。
「2次元画像を見ているだけでは、患者を診ていることにはならなかった。世の中が三次元なんだから、医療でも3Dデータを使うのが当たり前」(杉本先生)。
わたしたちにとって、カーナビがすでに当たり前であるように、医療を3次元空間で行うのが「普通」なのですね。
バーチャル医療を実現するHoloeyesXR
杉本真樹先生が創設されたHoloeyesXRは、CTデータをポリゴンというデータに変換し、VR端末に取り組んで患者の立体臓器を見られるようにするサービスです。
HoloeyesXRはクラウドサービスで、患者データをアップロードすると、わずか10分ほどでVR端末に取り込めるデータに変換されます。
手術中にホログラムを表示させて、医師たちが部位を確認しながら手術をしたり、VRゴーグルを装着することで、術前カンファでは医師が状態を確認したりできます。
これは写真をみていただくとわかりやすいですが、同時に疑問がわいてきませんか?
一時期ポケモンGOが流行ったように、現実世界に3DCGを出現させる技術があるのだから、医療でもそれが登場して不思議でない気がするけど・・・
この技術を知ったとき、わたしが感じた疑問です。
2次元を3次元へ、という今では当たり前に思える発想。
医療界では「当たり前」ではありませんでした。その壁が「ポリゴン化」です。
ポリゴン化という壁
HoloeyesXRは、医療データをポリゴン化する必要があります。多くの医師にとって、「ポリゴン化」は当たり前のことではなかったようです。
CTデータはボクセルというデータを使います。VR化するには、これをポリゴンというデータに変換しなければなりません。
杉本先生がデータのポリゴン化に抵抗がなかったのは、3Dプリンタを使っていたからでした。
ボクセル、ポリゴンについて補足しておきますね。
写真の画素はピクセルといいますよね。ピクセルに体積の要素を加えた三次元画像がボクセル(下の右)です。
これに対し、3Dプリンタで必要なデータはポリゴンデータ(下の左)です。
ポリゴンデータは、三角形、四角形の多角形からなるデータです。フィギュアなどの3DCGデータでおなじみですよね。
VRで使うためには、ボクセルをポリゴンデータにしなければいけませんでした。
このように、バーチャル医療には、「ポリゴン化の壁」がありました。その壁を取っ払うきっかけは、杉本先生が以前から使用していた3Dプリンタにあったということですね。
しかし、もっと大きな壁は、常識を疑わない、発想を変えられない、という既成概念だったと思われます。
知ることで病気を受け入れる
セミナーで意外だったのは、患者さんがVR画像によって自分の病気を受け入れた、という話です。
HoloeyesXRでできることは、手術中に立体臓器のホログラムを表示させて部位を確認したり、ベテラン医師の手技を学べるだけではありません。
患者さんが自分の体内の様子をVRゴーグルで見ることで、自分の病気に向き合ったり、見ることで不安を乗り越えることができるといいます。
セミナーでは、子宮がん治療後、3年経過してから当時の画像データから作成したホログラムを見て、初めて自分ががんだったことに向き合えた女性の話が紹介されました。
また、病気の患者さん以外に、妊婦さんが自分のお腹の赤ちゃんとホログラムで対面することも可能になっています。
妊娠したけど、胎動が感じられるまで、なかなか実感がわかない人も多いと思います。また、お腹の赤ちゃんが元気か不安になる人もいます。
今後は、VRでお腹の赤ちゃんに出産前に会ったり、一緒に記念撮影したりするサービスが増えていく気がします。
医療機関での導入事例
HoloeyesXRは国内の多くの病院に導入されています。導入している病院の一覧はHoloeyes社HPに掲載されています。
https://holoeyes.jp/voices/user-list-ex/
導入事例の1つが、脳動脈瘤の治療です。
脳動脈瘤とは、脳の血管にこぶのようなものができてしまう病気です。
破裂すると、破裂によって血液がクモ膜下腔に流れ込み、クモ膜下出血を引き起こします。未破裂のときにいかに治療するかが大切です。
動脈瘤はマイクロカテーテルとコイルを挿入して、こぶの中にコイルを詰めて塞栓させます。
このとき、あらかじめ血管の形状にあわせて、マイクロカテーテルを形付ける「シェイピング」を行います。シェイピングを行うことで、挿入時、動脈瘤に孔を開けてしまうことを回避します。
以前は、医師がモニターを確認しながら手動でマイクロカテーテルのシェイピングをしていました。
最近では、3Dプリンタで実際と同じ形状の血管モデルを作り、シェイピングしています。
モニターを見ながらのシェイピングにはベテラン医師による熟練した技術が必要でしたが、3Dプリンタ製の血管モデルであれば、若手医師でもシェイピングができます。
ただ、3Dプリンタ製モデルを使う欠点は、作製に時間がかかること。
VRと医療の融合によって、マイクロカテーテルのシェイピングが変わりつつあります。
3Dプリンタではなく、HoloeysXRを使うと、実際の血管モデルが空間に映し出されます。
この血管モデルにマイクロカテーテルを重ねれば、データ入力から30分ほどでシェイピングできるようになり、緊急の場合に対応できるようになりました。
3Dプリンタとの大きな違いは、血管モデルの準備ができるまでの時間です。
3Dプリンタでは数時間かかっていたのが、30分ほどで血管モデルができるようになりました。
ベテランでなくても穿刺ができる
もう1つの導入事例は、放射線科での穿刺治療です。
IVRというCTガイド下で穿刺位置を決める治療法の場合、CT装置の近くで穿刺するため、術者が被爆するという問題がありました。
HoloeysXRを使うと、被爆リスクをなくすことができます。
ホログラムはガイドを刺した状態で表示可能なので、ベテランでなくても、どこに刺せばよいかわかりますし、被爆の心配もありません。
このほか、実際の手術でも、ホログラムを出現させて、部位を確認しながら手術が可能となっています。
すると、こんな疑問がわいてきます。
ホログラムが手術の邪魔になることはないだろうか?
これは、わたしが感じた疑問でしたので、杉本先生に直接聞いてみました。
VRで再現したホログラムは、手を動かすことで簡単にどかせるので問題ないとのことでした。
そう聞いて納得ですが、できれば手術シミュレーションを一度体験してみたいですね。
VRと3Dプリンタの使い分け
HoloeyesXRの登場で、気になるのが医療における3Dプリンタの位置づけです。
杉本先生によると、VRと3Dプリンタは次の使い分けがあるとのこと。
縫う場合・血液など触感が必要な場合➡3Dプリンタ
3次元の空間位置を把握する場合➡VR
触感を通じて手技を身体で覚える場合は3Dプリンタ、ベテラン医師の技術を学んだり、わかりづらい腫瘍の位置を確認したりする場合はVRという感じですね。
今後はVRと3Dプリンタの両刀使いが医療において当たり前になっていく気がしますね。
現在、HoloeyesXRは医療機器として申請中です。
現在は基本価格1万円/1ケースからサービスが提供されていますが、医療機器として認可されれば病院が保険で恩恵を受けられるようになります。
VRの発展で、医療の当たり前が変わりつつありますね。
医療×VR×3Dプリンタは今後も勉強していきます。
※アイキャッチ画像の出典:Holoeyes株式会社
【参考】
医療ITエキスポ杉本真樹先生セミナー
東京医科歯科大 血管内治療科・脳神経外科 カテーテルのシェイピング
短径1.0 mmの破裂極小前交通動脈瘤に対して 1本のTarget nano coilで塞栓術を施行した1例:テクニカルノート
https://www.medieng.net/service-01.html
関西医科大学 総合医療センター 放射線科 穿刺治療のトレーニング