【バイオプリンタで肺胞のプリントに成功】バイオプリンティングのハードルを突破

バイオプリンタで肺胞に似た組織のプリントに成功したというニュースがありましたね。
ライス大学とワシントン大学の研究グループによる研究成果で、論文がサイエンス誌に掲載されていました。
サイエンス誌に掲載された論文
Multivascular networks and functional intravascular topologies within biocompatible hydrogels
残念ながら全体を理解することはできませんでしたが、研究のブレイクスルーポイントが興味深かったのでご紹介します。
研究のブレイクスルーは意外な〇〇
バイオプリンティングの大まかな原理について、以前記事にしました。
今回サイエンス誌に掲載された研究内容は、光造形バイオプリンティングによるもの。
光造形は、光硬化性樹脂に光をあてて樹脂を硬化させていく方法ですよね。光硬化性樹脂と一言でいっても、次のようにさまざまな物質から構成されています。

出典:光造形法の樹脂開発からみた今後の展望
生体組織を作製する場合、光硬化性樹脂を含んだハイドロゲルがバイオインクとなるため、工業的に使われる光造形と、バイオプリンティングで使われる光造形は、組成は異なると考えられます。
その点について論文でも触れられていました。
論文によると、光造形では、XY軸の解像度は光路によって決まるのに対し、Z軸の解像度は、光を吸収する添加物が過剰な光を吸収し、所望の厚さに重合をコントロールすることで決まります。光を吸収する添加物がない場合、光子を増やしたりしなければ、ハイドロゲルのパターンが制限されてしまいます。
確かに他の文献でも、光造形バイオプリンティングでは、細胞毒性のため重合開始剤をたくさん使えなかったり、薄層レベルまで重合をコントロールするために反応性のない光吸収材料を添加したりするとあります。
このあたり、工業用の光造形と異なり、バイオインクに求められる要求が高いのがわかります。
重合をコントロールする上でネックとなるのが、通常、遮光のために使用されるスーダンⅠなどは発癌性、遺伝毒性のため使用できないことです。研究グループはこの点に注目。なんと食用色素を使用しています。
具体的には、タートラジン、クルクミン、アントシアニンなどの食用色素を光吸収材料として使うことで、生体適合性ハイドロゲルの形成が可能だとしています。
造形された血管構造を赤血球が通過する様子からは、赤血球の色が暗赤色から赤色に変化しており、酸素運搬が行われていることがうかがえます。

出典:Multivascular networks and functional intravascular topologies within biocompatible hydrogels
もっと原理を理解したかった
研究に使われたバイオプリンタは、LumenXというCellink社のもの。Volumetric社と共同開発したもので、今年3月に発表されたばかりのバイオプリンタです。ちなみにVolumetric社は2018年に創設されたベンチャーです。

出典:volumetricbio.com
LumenXが動く様子を見たかったのですが、動画は確認できませんでした。
代わりに、今回の研究内容を紹介した動画がこちら。
光を照射してバイオインクを架橋させて血管構造を作るのだと思いますが、肺胞と血管網を備えたこの構造体。細胞や食用色素を含むハイドロゲルに光を照射することで、この構造物を同時にプリントできるの?というのが疑問でした。

出典:Multivascular networks and functional intravascular topologies within biocompatible hydrogels
LumenXは、同じくCellink社からでている押し出し式バイオプリンタBIO Xと組み合わせて使用できるようですので、LumenXでプリントした構造物にBIO Xで細胞をプリントしたのか、それともLumenXで一括でプリントするのか、わかりませんでした。(後者だと思います)。
バイオプリンティングの世界は、私の日常と理解からまだまだ遠くにあり、つかめそうでつかめません(悔しい)。
今回は結論のない記事ですみません。
光造形バイオプリンティングについては、セミナーや書籍を待つよりも、海外文献を読む方が理解が早そうです。今回の疑問は置いておき、再勉強してから再度チャレンジします。
【参考】
Multivascular networks and functional intravascular topologies within biocompatible hydrogels
Stereolithographic hydrogel printing of 3D microfluidic cell culture chips
サイエンス誌の表紙を飾った光造形3DバイオプリンターLumenXの販売開始【キコーテック】
Lumen X – 光造形3Dバイオプリンター (Cellink)
※アイキャッチ画像はサイエンス誌より引用。
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