サイフューズ・澁谷工業のバイオプリンタ「レジェノバ」の紹介 ー串刺ししない新たな剣山メソッドが登場ー
バイオプリンタの1つに、現在佐賀大の中山功一先生、サイフューズ社そして澁谷工業社が開発したレジェノバという装置があります。
レジェノバは、剣山のようにたくさんの針が並んだ土台にスフェロイド(細胞塊)を1つ1つ串刺しにし、細胞同士を融合させて立体構造体を作製するものです。過去記事で概要を説明しました。
当初、細胞を針に刺す作業は人手で行われていましたが、現在は自動化されています。
今回はレジェノバの特許明細書から自動化の仕組みを説明するとともに、澁谷工業による串刺ししない新たな剣山メソッドの技術をご紹介します。
目次
バイオプリンタ「レジェノバ」の仕組み
ご紹介する特許
特開2013-005751:細胞の立体構造体製造装置
出願人:国立大学法人佐賀大学/株式会社サイフューズ/澁谷工業株式会社
発明者:中山 功一/米田 健二/坂本 匡弘/越田 一朗/所村 正晴/深村 功
これはレジェノバの特許図面をわかりやすく加工したものです。
レジェノバの構成要素は大きく分けて5つです。
・スフェロイドを収容する場所
・吸引ノズル(スフェロイドを吸引する)
・針を複数備えた支持体(スフェロイドが串刺しされる場所)
・移動手段
・制御手段
この5つの構成要素がうまく連動して、図の矢印の流れでスフェロイドを針のある容器まで移動します。
収容プレート(水色)にあるスフェロイドを吸引ノズルで吸着保持した状態で、針が複数並んだ容器へと移動させ、針に突き刺します。
スフェロイドの直径は数百μm。
1㎛=0.001mmですので、例えば100㎛=0.1mmです。0.1mmほどのスフェロイドを数十㎛(10㎛だったら=0.01mm)の針に刺すのは至難の業ですよね。
スフェロイドを貫通した針は、吸引ノズルの内部に挿入されるようになっています(下の右側)。こうすることで、Z方向に1列ずつスフェロイドを積層させていくことができるのですね。
このためには、各サイズは次の関係を満たす必要があります。
吸引ノズルの内径 < スフェロイドの外径
吸引ノズルの内径 > 針の外周径
これは実際にレジェノバがスフェロイドを吸着保持している様子。
針に串刺ししている様子。
針と針の間は、スフェロイド1個分程度の間隔に設定されており、串刺しにした状態で培養することで、スフェロイド同士が融合していきます。
下のように、異種のスフェロイドを組み合わせることも可能です。
では、スフェロイドの串刺し作業がどのように自動化されているか見ていきます。
自動化工程では、次の2点がポイントになります。
【ステップ1】 吸引ノズルの中心部の位置を確認する
【ステップ2】 スフェロイドの位置・形状・大きさを確認し、吸引ノズルの下降量を調整する
【ステップ1】吸引ノズルの中心部の位置を確認する
まず、下方カメラで吸引ノズルを撮影し、吸引ノズルの中心部のズレを測定します。
この撮影は、スフェロイドを収容したプレートを吸引ノズルの下まで移動する前に行われます。
ズレがある場合、吸引ノズルをスフェロイドや針の位置に位置決めするとき、ズレを加味します。
こんな風に撮影されます。
【ステップ2】スフェロイドの位置・形状・大きさを確認し、吸引ノズルの下降量を調整する
次にスフェロイドを収容したプレートを吸引ノズルの下まで移動させ、プレート内のスフェロイドの位置・大きさ・形状を測定します。
次のように撮影されます。
例えばここでは、(a)、(b)はそれぞれ形状、大きさが適切ではありません。このような不合格なスフェロイドは、制御手段によって立体構造体には使用しないと判定され、吸引ノズルによる吸着は行われません。
また、(c)、(d)は合格品ですが、スフェロイドの位置が異なっています。
この場合、制御手段は、スフェロイドの直径からスフェロイドの高さを認識し、吸引ノズルがスフェロイドを吸着保持する時に、吸引ノズルを下げる距離(下降量)を調整します。
例えば、(c)はプレートの最も深いところにあり、(d)は(c)よりも浅い位置にありますので、(c)の下降量は、(d)より大きくなります。
実際のキャリブレーションの様子。
この2ステップを経てスフェロイドを移動させた後、下方カメラが再び収容プレートを撮影し、スフェロイドが取り除かれたことを確認します。
レジェノバは、下の水色の部位がそれぞれX方向、Y方向に動き、吸引ノズルを支える赤色の部分がZ方向(上下)に動きます。
この特許では、スフェロイドを密着させて立体構造体を作製するために、スフェロイドを針に串刺ししていますが、この方法は細胞を損傷させるおそれがあります。
そこで、同じく澁谷工業より、細胞を串刺しすることなく、スフェロイドを密着させて立体構造体を作製する特許が出されていますのでご紹介します。
剣山メソッドをさらに改良したバイオプリンタ
ご紹介する特許
特開2017-079719:細胞の集合構造体の作製方法および作製装置
出願人:澁谷工業株式会社
発明者:米田 健二/越田 一朗/畑中 彬良/永井 寛之
先ほどの特許との違いを図解化したのが次の図です。
2つの特許の違いはこれに尽きます。終わり。
・・・これではあっけないので、もう少し深掘りします。
前半で紹介した特許は、スフェロイドにピン(針)が刺さっていました。今回の特許は、4つのピンが1つのスフェロイドを保持するので、スフェロイドを串刺しする必要はありません。
この方法によると、スフェロイドを4つのピンで挟み込むことで、ピンの中間部分にスフェロイドを保持することができるので、設置面とスフェロイドの間に隙間が形成され、培養液を流すことができます。
スフェロイドが融合したら、プレートを上昇させて、構造体を取り出すことができます。
ただ、これで終わりではなくて、もう1つ処理が必要になります。
スフェロイド同士が融合する過程で、スフェロイドの中にピンが埋没する形になりますよね。ピンを抜くとピンが貫通していた部分には貫通孔が形成されます。
わかりやすく図解してみました。
上は、スフェロイドが融合し、構造体となった様子。緑色はピンを示しています。ピンがまだ貫通している状態です。
この構造体を持ち上げて、ピンを抜くと、ピンがあった箇所には貫通孔が形成されますよね(下で白丸の部分)。
培養液の入ったインキュベータに移し、再度培養することで貫通孔を埋めることができます。
澁谷工業のバイオプリンタは、Z方向にスフェロイドを並べて立体的な構造体を作製することもできます。
レジェノバの動画は見つけられましたが、澁谷工業の新しいバイオプリンタの動画は確認できませんでした。見てみたいです。
実は澁谷工業のバイオプリンタはさらに改良が行われています。その特許の紹介はまた改めて。
他にも細胞シート法など紹介したいものがたくさんありますので、順次ご紹介していきます。
【参考】
特開2013-005751
特開2017-079719
👆この本は人工臓器に興味を持ち、一番最初に買った本で、今でも愛用しています。
国内のバイオプリンタで著名な先生方が結集した贅沢な特集本。じっくり味わいたい方におすすめな濃厚な1冊です。