【2019】再生医療産業化展・バイオ医薬EXPO参加レポ
2019年再生医療展・バイオEXPOに行ってきました。
普段見ることのできないバイオプリンタや培養装置、培養プレートなど実物を見て、お話をうかがってきました。
一番の衝撃は、事前調査では勉強していなかったAI創薬を手がけるMOLCURE社。知るの遅すぎ・・・ですが、ここまで来ているのか、と驚きました。
技術の進歩に感動している暇はないですね。今後は再生医療+3Dプリンティングに加え、AI創薬も勉強していきます。
全体の一部ですが、雰囲気が伝われば幸いです。
目次
CELLINKのバイオプリンタ―『BIO X』と『LUMEN X』
CEELLINKのバイオプリンタ―BIOXが展示されていました。
ノズルからバイオインクを押し出していくタイプのバイオプリンタで、3種類のバイオインクを同時に使えるので、皮膚組織の造形も可能です。造形した組織・用途に応じて多数あるバイオインクの中から最適なものを選び、細胞を入れて使用します。
BIO XのようなFDM方式のバイオプリンタについて、液体の中で造形しなくても大丈夫なのだろうか?と思ったことがあります。
バイオインクにハイドロゲルが含まれるため、液体の中で造形しなくても乾燥しません。プレートに積層し、完了後に培養液につければOKとのことでした。
お隣には、光造形方式のLUMEN Xがありました。
光造形のバイオプリンタは、一般の光造形と同じで、樹脂に光を照射して固めていきます。樹脂を固めながら血管の管腔構造を作っていきます。このバイオプリンタを使って、血管付きの肺胞をプリントし、酸素交換が行われていることを確認した論文が5月に発表されたことは記憶に新しいです。
FDMよりも粘性のあるインクを扱えるのが光造形の特徴ですね。
サイフューズの新しいバイオプリンタ―「SPIKE」
今回の再生医療展でぜひ見たかったもう1つのバイオプリンタ―は、サイフューズ社のSPIKE。シスメックス社が独占販売契約を締結しています。
これまでのレジェノバと何が違うのか?というと、ユーザーがデザインを自由に設定できるようになったことです。
これまでは、微細なニードルをびっしり敷き詰めた剣山を使っていました。
SPIKEは、形状に基づいて、必要なところのみに剣山を差し込んで使います。
ニードルにスフェロイドを串刺ししてから、ニードルを整列させます。レジェノバでは、すでに敷き詰められたニードルの必要な箇所にスフェロイドを串刺ししていました。
これまでに発表されている論文で使われているのはまだレジェノバのようです。
レジェノバといえば、佐賀大の中山功一先生主導で、透析患者への移植血管にレジェノバで作製した人工血管を移植する臨床試験が申請されていますね。
ラボを持たない化粧品メーカーに吉報!?オーガンテクノロジーズの人工皮膚モデル『Advanced Skin』
表皮層だけでなく、真皮層まで含めた三次元構造を再現したのが、Advanced Skin。毛包、皮脂腺、毛穴などの皮膚付属器官も再現しています。
この製品のスゴイポイントは大きく2点。
1点目は、真皮層におけるコラーゲン繊維、線維芽細胞を水平方向に配向させて、皮膚にかかる横方向の力学を再現している点。
Advanced Skinの真皮層上側と下側とで、より天然の皮膚組織に近い構造になっていることがわかります。
2点目は、安全性評価だけでなく機能性評価が可能なこと。
従来の皮膚モデルでは、表皮4層モデルは安全性評価に使われていましたが、真皮まで含めた機能性評価はほとんど行われていません。
Advanced Skinはヒトの皮膚に近い構造を再現しているため、従来の皮膚モデルではできなかった機能性評価が可能で、新規機能性物質の発見にもつながります。
たとえば、ニキビやシミの治療薬成分として使われるレチオイン酸。
これをAdvanced Skinに塗布した後の、表皮マーカー・ヒアルロン酸合成酵素(HAS3)と真皮マーカー・コラーゲン(COL1A1)の遺伝子発現量の変化を示したものが次のグラフです。
このように、調べたい素材を塗布したときの、皮膚の生理的反応を確認することが可能です。つまり、肌への効果を客観的に確認することができるわけですね。
安全性評価だけでなく、対象となる素材にどのような効果があるのか、機能性評価が可能となることが、従来皮膚モデルとの違いです。
自社研究所を持たない中小企業にとって、強力な開発促進ツールとなりそうですね。
ジェイテックコーポレーションのCellPet
ジェイテックコーポレーションのスフェロイド培養装置は、重力と浮力を利用しています。
培養容器を回転させることで、上向きの流れにより発生する浮力と、細胞にかかる重力が釣り合ったときに細胞が培地の中で浮遊し続けます。
これにより、従来の2日毎から3~4日に1回の培地交換で済んでいるとのこと。
では、iPS細胞の未分化をどのように維持しているのか聞いてみたところ、大きくなったスフェロイドを、下記CellPet FTを使って押し出して、小片化させているようです。
物理的な力を利用して、小片化・分散させ、未分化を維持しているわけですね。これによって完全に閉鎖系で継代培養が可能になりますね。
水戸工業(Kugelmeriers)のSphericalPlate 5D
事前勉強で疑問だったSphericalPlate 5Dを見てきました。
特許明細書でわからなかったところを聞いてみましたが、明細書にあるプレートと構造が異なるようでした。つまり、培地交換のためにインサートを外す構造ではなく、マイクロピペットを利用しての交換でした。
特許のポイントが、マイクロウェルの形状(丸底型)とサイズにあることは明細書通りでした。
素人丸出しですが、微細なマイクロウェルを手に取ると、ここに特許があるのか~と感激です。
この微細なウェルを拡大すると、次のような形状になっています。実際のウェルは、👇右のピラミッドを逆さにした状態です。
SphericalPlate 5Dの何がすごいかというと、研究用ではなく、臨床応用されていること。2019年にチューリッヒ大学の臨床試験で使用される予定です。
グライナーのMagnetic3D
グライナーMagnetic3D(Nano3D)も見てきました。
磁気粒子を細胞表面に付着させ、磁力によりスフェロイドを形成するキットです。6時間~一晩でスフェロイドが形成されます。
強みは、U字型やV字型のウェルプレートと異なり、平面のため、イメージング解析に適しているとのことです。また、磁気粒子は回収できず、スクリーニングなど研究用途として使われます。
超音波が細胞に与える影響を研究するMU研究所
超音波、細胞と聞いて連想するのはマイクロバブルを利用したDDS。
治療用超音波とマイクロバブルを併用して、細胞膜に一過性の小さな孔が生じるのを利用して、薬剤や遺伝子を導入するのがソノポレーション。体外から超音波照射を利用して、低侵襲的に薬剤や遺伝子を導入できるDDSとして注目されています。
上のグラフは、ソノポレーションを利用して、細胞に遺伝子導入した後の、細胞障害の有無を調べたもの。超音波を利用して遺伝子を導入しても、細胞生存率はコントロールと変化ないことから、細胞障害がないことがわかりますね。
しかし、MU研究所の望月社長によると、超音波には多数のパラメータがあり、各パラメータが細胞に与える影響の研究はまだこれからのようなのです。
これら各パラメータの制御が可能で、細胞に超音波を照射したとき、超音波が細胞へもたらす影響を研究できるのがSound Cell Incubator 4-chanel Systemです。
マイクロバブルによる遺伝子導入から、細胞の活性・増殖、細胞のアポトーシス誘導などの研究を行えるようです。
【AI創薬】AI×バイオ医薬を実現するMOLCURE社
今回の再生医療展にはAI創薬ゾーンがありました。
そこで知ったのがMOLCURE社。
同社のサービスAbtracerが対象とするのは抗体医薬。
これまで手作業で抗体と抗原のマッチングを繰り返してようやく有用な抗体を1つ探す、という莫大なコストと長期間かかるという問題を解決するものです。
AIの機械学習を利用して、膨大な抗体ライブラリから目標とする抗原に最適な候補を探すことを可能にします。
ポイントは、これまでであればスクリーニング過程で見落としていた”実は有用な抗体”を、取りこぼすことなく見つけられること。
AI×バイオ(抗体医薬)がここまで来ているのかと驚きでした。
まだ全貌を全くつかめていません。勉強します!
まとめ
私が初めて再生医療展に参加したのは2017年。当時はわからないことだらけでした。現在も、再生医療の全体像をつかめていません。
研究所勤務の経験もなく、再生医療の文献や特許を読んでも理解できないこと・イメージしにくいことが多かったのですが、少しずつ理解できるようになってきました。
ラボに無縁な人間にとって、こういった展示会を利用するのはとても有効ですね。
今後も再生医療・バイオプリンティングの最新情報を発信していきますので、何かリクエストがありましたらお気軽にお問い合わせください。