【3Dプリンタ×建築】日本企業・前田建設工業による建築用3Dプリンティング技術をご紹介
前回は大林組の3Dプリンティング技術をご紹介しました。
今回は、前田建設工業の建築用3Dプリンティングの技術をご紹介します。
前田建設工業も数年前よりコンクリート積層技術の研究開発に取り組んでいる企業です。
これまでにコンクリート3Dプリンタの開発、空想を現実にするための技術研究所『ICI総合センター』を設立するなど、建築への3Dプリンティング応用に向けて取り組んでいます。
今回は、前田建設工業の建築用3Dプリンタに使われるノズルにどのような工夫が施されているかに注目します。
目次
前田建設工業の建築用3Dプリンタのポイント
ご紹介する特許
特開2018-86747
発明の名称:3Dプリント技術を用いた建設構造物の構築装置
この特許は主に、ノズルに関するものです。
このノズルを利用することで、
・造形物の内部構造を自由に調整できる
・構造物の形状や吐出量を調整できる
この2点が可能になっています。
そこで今回は、
このノズルがどのようにして、造形物の構造を自由に設定したり、吐出量をコントロールできるのか?
という点に注目します。
まず、こちらは特許明細書にあるノズルの図面です。
吐出口側から見たノズルの拡大図を示しています。
前田建設工業の3Dプリンタは、ノズルを交換することで、さまざまな形状の構造物をつくることができます。
たとえば、次のような六角形状で押し出すことができます。
六角形状で押し出したい場合、
外筒と型を使うことで、六角形状になります。これはクッキー生地を型でくり抜くイメージと同じですね。
中実状(詰まった状態)の型でくり抜けば、中空状の六角形になります。
ここで1つ問題があります。
外筒の内部に、型を固定するには、接続部材が必要になりますよね。
もしノズル吐出口近くに接続部材があると、押し出される構造物は、接続部材が障害になり、きれいな六角形状になりません。
下のように、六角形が欠けた構造になってしまいます。
すると、次のような形状で積層することができなくなります。
そこで前田建設工業は、材料が送られる側から吐出される側へ向かって、内空形状が徐々に変化するように設計しました。
材料が送られる側(送出側)には、型と外筒を固定するための接続部材が設けられてあります(下図上の緑色の丸部分)。
一方で、吐出口側では接続部材をなくしています(下図の下)。
こうすることで、押し出される材料が、望みの形状になるわけです。
このあたり、明細書の図面ではわかりにくく感じましたので、CADを使って図解してみました。
上の図は、材料を送る側から吐出口にかけて、接続部材が少なくなっているイメージを示しています。内部構造がわかりやすいように、外筒は透明にしています。
(CADを使うと、強調したい部分を色付けして、他の部分を透明にできるので便利です)。
これを送出側、吐出口側から見たものが、明細書にある図です。
おそらく、接続部材はらせん階段のようにずらして設けられていると思われます。
CADで再現するとこんな感じ。
ここでは六角形状に押し出す場合をお示ししましたが、ほかにも、円筒状、四角形状などさまざまな形状で押し出すことができるのが、前田建設工業の3Dプリンタです。
ノズルは着脱可能なので、建設する構造体に合わせて、押し出し形状を変えられるわけですね。
流動性を調整する2つの工夫
ノズル先端部付近で流動性を調整できるよう、2つの工夫が施されています。
①ノズル先端付近に添加剤を混入する装置を設ける
②ノズル先端付近に温度調整装置を設ける
いずれかを選ぶことが可能で、温度によって流動性が変化する材料を使用する場合は②を選択します。
このノズルを3Dプリンタに装着して、水平方向、垂直方向に積層可能です。
このようにして、前田建設工業の3Dプリンタは次の2点を実現しています。
・造形物の内部構造を自由に調整できる
・構造物の形状や吐出量を調整できる
2点が可能な秘訣は、ノズルにあるというお話でした。
明細書ではノズルの形状について記載されており、具体的な製造方法には触れていませんでしたが、このノズルも3Dプリンタで造形できそうですよね。
3Dプリンティングの建設活用に向けた『BootCamp』
前田建設工業によると、
アニメや漫画など、現実には難しかった空想上の構造物を実現する方法を模索するため、2019年8月にBootCampが開催されます。
前田建設工業×サムライインキュベート ー ICIリアルファンタジー営業部 第1回BootCamp
募集テーマは下記のとおり。
企業だけでなく、スタートアップ、これから起業を考えている個人も対象になります。
募集テーマ
- コンクリートを使った3Dプリンティング活用に向けた“技術課題”の解決
- 3Dプリンティングを活用した建設物の”新設“
(対象:マンション、橋、コンビニ店舗など)
- 3Dプリンティングを活用した建設物の”補修・補強“
(対象:マンション、橋、コンビニ店舗、道路など)
- 3Dプリンティング技術を活用した”無人建築ロボット“
(対象:タワーマンション)
2日間のプログラムでは、
1日目にアイディアの落とし込みとブラッシュアップを行い、2日目はアイディアに関して改善点の洗い出し、最終プレゼン資料の作成、最終プレゼンまで行い、審査結果が発表されます。
審査に通過し、希望する企業にはサムライインキュベートより2000~3000万円の投資が行われます。
本プログラムは、『ICI総合センターICI ラボ』を拠点とした、3Dプリンティングを建設に応用する取り組みの1つとなります。
『ICI総合センターICI ラボ』は、前田建設工業が2018年12月にオープンした技術研究所です。
同センターには、幅2m×長さ2m×高さ3mのロボットアーム型コンクリート3Dプリンタが導入されています。
この3Dプリンタに使うノズルが、今回ご紹介した明細書のノズルでしょうか?そんな気がします。
BootCampの開催結果でどのようなプロジェクトが生まれるか楽しみですね。
地震大国の日本で、どのように3Dプリンティングの建設応用が進んでいくか、今後も注目していきます。
【参考】
高精度で自由形状に自動打設 コンクリート3Dプリンターを開発
特開2018-86747(3Dプリント技術を用いた建設構造物の構築装置)
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