トリプトファンオペロンをわかりやすく解説
大腸菌は環境の変化に対応してアミノ酸をつくるスイッチをON、OFFにする仕組みをもっています。
これにはオペロンという単位が関係しています。
オペロンには大きく次の2つがあります。
●抑制オペロン
●誘導オペロン
今回ご紹介するのは、抑制オペロンであるトリプトファンオペロンです。
簡単にいうと、普段はアミノ酸(トリプトファン)が作られるのを見守っていますが、アミノ酸が過剰に作られると生産を抑制する仕組みです。
まず、オペロンの概要をみてから、トリプトファンオペロンの仕組みをわかりやすく解説します。
オペロンとは?
原核生物に特有のオペロンは、染色体上に隣り合って並び、機能上関係している遺伝子の集まりと、これら遺伝子の発現をコントロールする領域を合わせたものです。
染色体上に隣り合って並び、機能上関係している遺伝子を構造遺伝子といいます。
構造遺伝子の発現をコントロールする領域は、プロモーター、オペレーターから構成されます。
構造遺伝子=アミノ酸配列を決める遺伝子
プロモーター、オペレーター=複数の構造遺伝子をコントロールするもの
※オペロン=構造遺伝子ではありません。構造遺伝子はオペロンを構成するものです。
つまり、オペロンは原核生物の転写単位のことで、プロモーター、オペレーター、セットで転写される遺伝子の集まりから構成されます。
オペロン
●プロモーター
●オペレーター
●遺伝子の集まり
トリプトファンオペロンの場合、5個の構造遺伝子が染色体上に隣同士で並んでおり、全部そろって初めてトリプトファンの合成ができます。
オペロンは原核生物に特有の機構で、基本的に真核生物にはありません。
オペロンの1つである、トリプトファンオペロンについてみていきます。
トリプトファンオペロンの仕組み
繰り返しですが、オペロンは次の3つから構成されます。
・プロモーター
・オペレーター
・2つ以上の構造遺伝子
トリプトファンをつくるオペロンをトリプトファンオペロンといいます。
トリプトファンオペロンの特徴は次のとおり。
普段はスイッチがONで、
トリプトファン濃度が高くなると、スイッチがOFFになる
つまり、普段はON(転写される)で、必要に応じてOFF(転写ストップ)になります。
冒頭で書いたとおり、普段はアミノ酸(トリプトファン)が作られるのを見守っていますが、アミノ酸が過剰に作られると生産を抑制する仕組みです。
文字だけではわかりづらいので、イラストにしてみました。
トリプトファン濃度が低い(ふだんの状態)
➡リプレッサーは寝ている(ひま)
➡オペロンはONの状態
➡トリプトファンが合成される
トリプトファン濃度が高い
➡リプレッサーが働く(忙しい)
➡オペロンはOFFになる
➡トリプトファンの合成はストップ
上記のとおり、オペロンをON、OFFにするのが、トリプトファンリプレッサーです。
リプレッサーはつねに細胞内に存在しており、細胞内のトリプトファン濃度が高くなると、転写をストップさせるために働き出します。
転写を止めるために、リプレッサーが結合するのがオペレーターという短い塩基配列の領域です。オペレーターにリプレッサーが結合すると、RNAポリメラーゼはプロモーターに結合できなくなり、転写はストップします。
トリプトファンリプレッサーは、必要に応じてオペロンをOFF、つまり転写を止めているわけですね。
濃度が低いとき・高いときでイラスト付きで見ていきます。
トリプトファン濃度が低いとき
リプレッサーはお休み状態です(不活性)。
リプレッサーの介入がないので、RNAポリメラーゼがプロモーターに結合でき、トリプトファンオペロンの遺伝子を転写します。
トリプトファン濃度が高いとき
細胞内に増えたトリプトファンを察知して、リプレッサーが働きはじめます。
リプレッサーがオペレーターに結合すると、リプレッサーが邪魔で、RNAポリメラーゼはプロモーターに結合できなくなります。そのため、転写がストップします。
最後に、トリプトファンオペロンのある特徴について説明します。
トリプトファンオペロンの特徴
トリプトファンオペロンには次の特徴があります。
トリプトファンリプレッサーは単体ではオペレーター部位に結合することができない。
トリプトファンがトリプトファンリプレッサーに結合して、初めてオペレーターに結合できるのです。
トリプトファンがトリプトファンリプレッサーに結合すると、リプレッサーの三次元構造が少し変化して、オペレーター部位に結合できるようになります。
このようなタンパクをアロステリック酵素といいます。
そして、トリプトファン濃度が下がると、リプレッサーはDNAに結合できなくなり、抑制が解除され、トリプトファンオペロンがONとなり、転写が始まる、というわけです。
今回の内容を1枚にまとめたのがこちらです。わかりやすくまとまっています。
今回ご紹介したトリプトファンオペロンは抑制オペロンでした。
誘導オペロンの代表であるラクトースオペロンについては、別の記事で解説します。
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