真核細胞の転写における基本転写因子の働きをわかりやすく解説

前回はmRNA、tRNA、rRNAなどRNAの種類・働きについて学びました。

今回からDNAからRNAへ転写されるメカニズムを細かくみていきます。

まず、転写が開始されるときに登場する基本転写因子。漢字が6文字で堅苦しくてわかりにくいと思う方、結構いらっしゃると思います。

基本転写因子はタンパク質ができるかどうかに深く関わるものです。基本転写因子がなければ、私たちは生命を維持できないのです。

転写因子について、特に転写調節因子と基本転写因子の違いが知りたいかたはこちらをご覧ください。

>>>転写因子、転写調節因子、基本転写因子の違いは何?

真核細胞の転写における基本転写因子の働きとは?

結論から言うと、

基本転写因子はRNAポリメラーゼが転写を開始するために不可欠なもの、

RNAポリメラーゼにDNAのどの部分をコピーするべきかを伝える目印となるものです。

RNAポリメラーゼ自身では、DNAの正確な場所にたどりつけません。

つまり、基本転写因子はタンパク質合成のはじまりに必要なものなのです。

本題に入る前に、混乱しがちな転写因子と基本転写因子の違いについておさえておきます。

転写因子と基本転写因子の違い

転写因子と基本基本因子どちらもタンパク質です。

転写因子の概要をまとめると次のとおり。

転写因子とは?

DNAに結合する複数のタンパク質のこと

DNAに結合する理由は?

DNAの遺伝情報をRNAに転写するのを促進、または抑制するため。

DNAのどこに結合?

プロモーターやエンハンサーなどの転写を制御する領域に結合します。

どうやって働く?

単独または他のタンパク質と複合体を形成します。

 

基本転写因子とは、複数ある転写因子のうち、プロモーター領域を認識して先にDNAに結合し、RNAポリメラーゼがDNAの正確な位置に結合するための目印となって、転写を促進するものです。

 

転写の流れは次のとおりでしたね。

 

  1. RNAポリメラーゼがDNAをコピーする
  2. DNAと相補的なヌクレオチドをつないでmRNAにする

 

転写の過程では、DNAの情報すべてがコピーされるわけではなく、必要な部分だけコピーされます。

 

基本転写因子の働き

RNAポリメラーゼはRNAを合成するために不可欠ですが、真核細胞の場合、RNAポリメラーゼだけあっても転写は開始されません。RNAポリメラーゼがDNAの正しい位置に配置される必要があります。

しかし、RNAポリメラーゼは自分だけでは行くべき場所がわかりません。

そこで、ナビゲートしてくれる存在が必要になります。それが基本転写因子です。

基本転写因子が最初にDNAのプロモーターに結合し、ここにRNAポリメラーゼが結合することで転写が開始します。

 

これは新入社員と先輩の関係に似ています。

 

新人は大量のコピーを任されました。まだプロジェクトの概要を把握していないので、どこからコピーすればよいかわかりません。

先輩がコピーの必要な場所にポストイットを貼ってくれたおかげで、新人はコピーを始めます。

一束のコピーはひとまず終了。コピーが必要な書類はまだありますので、先輩が必要な場所にポストイットを貼っていきます。

 

 

生物では、この作業が永遠につづくため、先輩(基本転写因子)が新人(RNAポリメラーゼ)に毎回目印となる場所を教えてあげる必要があります。

繰り返しになりますが、

RNAポリメラーゼはDNAの情報を転写してRNAを合成するのに必要ですが、真核細胞の場合、RNAポリメラーゼだけでは転写を始められません。

これを図解したのがこちら。

 

ざっくりした流れは次のとおり。

基本転写因子がDNAのプロモーターに結合。RNAポリメラーゼにとって目印となります。

RNAポリメラーゼは行くべき場所がわかり、正しい位置に結合します。

③基本転写因子とRNAポリメラーゼが集合し、転写開始複合体を形成。みんなで力を合わせて転写を始めます

④RNAを合成したら、RNAポリメラーゼ、基本転写因子は次の仕事場所へ向かいます

 

厳密には、基本転写因子(タンパク質)は以下の5種類あり、ここでのRNAポリメラーゼはRNAポリメラーゼⅡです。

基本転写因子

  • TFIIB
  • TFIID
  • TFIIE
  • TFIIF
  • TFIIH

 

基本転写因子とRNAポリメラーゼⅡより形成されるのが、転写開始複合体(PIC)です。

 

ここまでのまとめ

・基本転写因子は、RNAポリメラーゼが転写を開始できるように手助けするものである

・基本転写因子は、RNAポリメラーゼに行くべき場所を伝える目印となる

・仕事(転写)が終わると、RNAポリメラーゼ、基本転写因子は次の仕事場所へと移動していく

 

 

真核生物と原核生物における転写開始の違い

真核生物と原核生物では、転写開始に次のような違いがあります。

RNAポリメラーゼの種類

 

原核生物ではRNAポリメラーゼが1種類であるのに対し、真核生物ではRNAポリメラーゼは3種類あります。

3種類のうち、タンパク質をコードする遺伝子を転写するのはRNAポリメラーゼⅡだけです。

原核生物は単独で転写を開始できるが、真核生物はできない

上述の通り、真核生物のRNAポリメラーゼは自身で転写を開始できず、基本転写因子などの複数のタンパク質の力を必要とします。

これに対し、

原核生物ではRNAポリメラーゼ自身がプロモーターを認識します。

 

プロモーターとTATAボックスの違い

次にプロモーターとセットで出てくるTATAボックスについてみていきます。

TATAボックスの働き

プロモーターとTATAボックスとはどういう関係にあるのでしょうか?

TATAボックスは何のために存在するのでしょうか?

出典:http://www.mun.ca/biology/desmid/brian/BIOL3530/DEVO_10/ch10f03.jpg

 

この2つの概念はとてもシンプルです。

プロモーターとは、転写が開始される部分のことです。

TATAボックスは、プロモーター領域の一部を指します。

 

具体的には、TATAボックスは、プロモーター領域のT塩基とA塩基が豊富にある場所のことです。

記事の前半で、RNAポリメラーゼが転写を開始するためには、基本転写因子がプロモーターに結合する必要があると書きました。

より正確には、プロモーター領域のTATAボックスに基本転写因子が結合することで、RNAポリメラーゼが転写を開始します。

つまり、TATAボックスは転写開始の目印となるわけですね。

基本転写因子にとってはTATAボックスが目印、RNAポリメラーゼⅡにとっては基本転写因子が目印とイメージすることができますね。

正確には、基本転写因子がTATAボックスに結合すると、DNAの二重らせんが局所的に大きくゆがみ、これがRNAポリメラーゼⅡや他のタンパク質がプロモーターに結合するときの目印となります。

まとめ

今回学んだポイントはこちら。

真核生物では、RNAポリメラーゼ単独では転写を開始できない

真核生物では、転写開始のトリガーは、基本転写因子がDNAの特定部位に結合することである

TATAボックスは、プロモーター領域の一部である

TATAボックスは転写開始の目印である

 

別の記事でも触れましたが、バイオ分野では概念の具体と抽象を行き来できるかどうかが理解の鍵になりますね。

エッセンシャル細胞生物学などの教科書では、情報量の多さから具体に目が行きがちですが、抽象化することで、整理しやすくなると思います。

具体と抽象を行き来するコツはこの本に書いてあります。

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公開日:2019年6月11日