rRNA、mRNA、tRNAの違い・役割をわかりやすく解説【身近な例えつき】

生物学のタンパク質合成で出てくるRNAの種類に頭が混乱したことはありませんか?
rRNA、mRNA、tRNAなどいろいろなRNAが登場して、RNAとrRNAは別物なのか、包括関係にあるのかなど、混乱することがありますよね。
結論から言うと、rRNA、mRNA、tRNAはすべてRNAです。RNAを機能・役割によって分類した呼び名が、rRNA、mRNA、tRNAです。
政府機関が経産省、防衛相、文科省に分けられているのと同じイメージです。
今回は混乱しやすい各RNAについて、わかりやすく解説します。
もしイメージを最初に抑えたいという方は、記事の最後からご覧ください。身近な例えで、各RNAとタンパク質合成を説明しています。
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目次
rRNA、mRNA、tRNAの違い・役割をまずざっくりイメージ
DNAは重要な遺伝情報を持っていますが、RNAの力を借りなければ、遺伝情報を活用できません。
以前の記事でも触れましたが、
DNAは遺伝情報を保存するためのもの
RNAは遺伝情報を利用するためのもの
なんですね。
つまり、DNAの情報をアウトプットする(発現させる)のがRNAの役割です。
※厳密には、RNAには情報を利用しないものがあります。
tRNA、rRNAは厳密にはノンコーディングRNAに含まれますが、ここではわかりやすく理解していただくために、大まかに説明しています。
mRNA、tRNA、rRNAのざっくりしたイメージをイラストにするとこんな感じです。
※後で説明しますが、mRNAとtRNAが「持つ」ものは異なります。
mRNA=メッセンジャーRNA:持つ
tRNA=トランスファーRNA:運ぶ(+識別する)
rRNA=リボソームRNA:作る
もう少し詳しくしたのがこちら。

出典:http://ajan.ciceros.co
rRNAと書いてあるものはリボソームでないの?という疑問については、後述します。
mRNAの役割
mRNAの役割は「持つ」こと。持つのは遺伝情報です。
mRNAは遺伝情報をDNAから受け取って(コピーして)、タンパク質を作る場所(リボソーム)まで移動します。DNAの遺伝情報がmRNAにコピーされることを転写といいます。
しかし、貴重な情報を持っていても、材料(アミノ酸)がなければタンパク質を合成できません。
一流シェフの秘伝レシピの情報を持っているけれど、肝心の材料がなくては料理を作れないのと同じです。
そこで、tRNAの力を借ります。
tRNAの役割
tRNAの役割は2つ。運ぶこと・識別することです。
運ぶのはアミノ酸です。識別するのは、届け先(mRNA)の所定の場所です。
tRNAはアミノ酸をmRNAまで運びます。
こちらの記事で、RNAは一本鎖ですが折りたたまれて分子内で塩基対を形成し、三次元構造を形成することを書きました。tRNAはその典型例で、次のような構造をしています。

出典:http://fig.cox.miami.edu/~cmallery/150/gene/tRNA.htm
tRNAでは、👆で分子の両端に塩基対を形成していない部分が2箇所ありますね(赤字)。この2つの部分が、タンパク質を合成するうえで非常に重要です。
その1つが、一番上にあるコドン(3つの塩基の集まり)。ここにアミノ酸が結合します。もう1つが、一番下にあるアンチコドン。この3つのヌクレオチドが、mRNAの相補的なコドンと塩基対を形成します。
mRNAの3つの塩基と逆配列の塩基を持つため、アンチコドンといいます。
tRNAは片方で正しいアミノ酸を識別し、もう片方でmRNAのコドンを識別し、アミノ酸をmRNAの所定の位置に届けます。mRNAのコドンがアミノ酸を識別するわけではないのです。
教科書にはさまざまなtRNAの模式図が登場します。
👇の左は、実際の全体像を示したもの。右は、tRNAのアンチコドンを強調した模式図です。

出典:http://fig.cox.miami.edu/~cmallery/150/gene/tRNA.htm
このようにして、アミノ酸を持ったtRNAがmRNAに沿って一列に並び、アミノ酸同士が結合してタンパク質が合成されていきます。タンパク質の合成工場となる場が、リボソームです。

出典:courses.lumenlearning.com
rRNAとリボソームの違い
まず、リボソームとrRNAについて区別しておきます。
リボソームは、rRNAとタンパク質から構成されており、リボソームの中心的な役割はrRNAが担います。タンパク質はrRNAを強化するものです。つまり、リボソームの主役はrRNAなのです。
これは教科書から抜粋したリボソームの構造です。

出典:ワトソン遺伝子の分子生物学(第6版)p476
リボソームの中心はrRNAで、タンパク質がrRNAの隙間を埋めていますね。

出典:alevelbiology.co.uk
リボソームは👆のように大小のサブニットより構成されます。翻訳が行われないときは、左のように離れて存在しています。
タンパク質合成のたびに、「くっつく→離れる」を繰り返しています。その流れは、
①リボソームの大小ユニットが集合する
②リボソームがmRNAと会合する
③tRNAがアミノ酸をmRNAに届け、タンパク質が合成される
④リボソームがmRNAから離れ、大小サブユニットがバラバラになる

出典:ワトソン遺伝子の分子生物学(第6版)p473
rRNAの役割
rRNAの役割は、タンパク質をつくることです。正確には、タンパク質合成を触媒することです。
リボソームにおけるrRNAの役割をもう少し詳しく見てみます。
前述の通り、リボソームは大小のサブユニットから構成されていましたね。各サブユニットには次の違いがあります。
小サブユニット:mRNAとtRNAを正しく結合させる(暗号解読センター)
大サブユニット:ペプチド結合を形成する(ぺプチジル転移酵素中心)
サブユニットの違いと書きましたが、実際は、リボソームの上記機能を持つ領域は、ほとんど、または完全にrRNAからできています。
このように、rRNAはリボソームの中で、mRNAとtRNAのペアが正しいかどうかを確認し、ペプチド鎖を形成しています。もし間違ったtRNAが入り込んでいたら、そのtRNAは追い出されてしまいます。
リボソームができないこと
興味深いのが、リボソームはtRNAとmRNAのマッチングはしっかり確認しますが、tRNAが持っているアミノ酸が正しいかどうかは確認できないことです。
つまり、リボソームはtRNAを識別するのであって、アミノ酸を識別するのではないということです。もしtRNAが間違ったアミノ酸を持っていても、それを阻止することはないのです。リボソームの優先事項は、tRNAとmRNAのマッチングが正しいかどうかを確認することなのです。
では、どのようにtRNAの持つアミノ酸が正しいかを確認するかというと、アミノアシルtRNA合成酵素が活躍します。アミノ酸の種類ごとに合成酵素が1種類あり、担当するアミノ酸をそれぞれ正しいtRNAに結合させています。この精度は非常に高く、間違ったアミノ酸を結合するtRNAは1000個に1個以下です。
その細かな仕組みはまた別の機会に譲るとして、今回お話したmRNA、tRNA、rRNAの関係。考えれば考えるほど、男女が結婚に至るまでを連想するのは私だけでしょうか?
mRNA、tRNA、rRNAの関係を身近な例で解説
ここでは一旦DNAは置いておいて、各RNAの関係性に着目しています。
ある日、男性が女性にプロポーズしました。
女性は結婚に同意。
そして、女性の両親にご挨拶。結婚の承諾をもらいます。
めでたく結婚!
誰が(または何が)何に該当するかイメージわきますか?
結婚を承諾された場合、されなかった場合を各RNAになぞらえたのがこちら。
それぞれの過程を解説すると、
男性が女性にプロポーズ:tRNAがアミノ酸をmRNAに運ぶ。指輪がアミノ酸
両親にご挨拶:両親(rRNA)が男性(tRNA)とmRNA(女性)のペアが正しいかチェック
両親が支持し、2人は結婚:タンパク質が合成される
両親が反対:リボソームからtRNAを追い出す
この例えだと、男性(tRNA)が女性(mRNA)にどんな指輪(アミノ酸)を用意したか、両親は関与せず、ということですね。あくまで、男性の人間性(将来性も?)と二人の相性を確認するだけ、ということです。
身分不相応であった場合は、男性(tRNA)は「おとといきやがれ」と両親に追い出されてしまうわけです。
この例えが参考になれば幸いです。
※アイキャッチ画像の出典:http://ajan.ciceros.co
【参考】
カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)
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