血管を備えた人工皮膚のバイオ3Dプリントに成功【レンセラー工科大学】
血管を備えた人工皮膚のバイオプリントに成功したというニュースがありました。
成功したのはレンセラー工科大学のPankaj Karande教授。
専門は経皮ドラッグデリバリーで、近年は皮膚のバイオプリンティングの研究に注力されています。
Karande教授は2013年に3Dプリンタによる人工皮膚作製を発表していますが、今回はその”アップグレード版”。
進化したのは、人工皮膚が「血管」を備えていることです。
レンセラー工科大学とイエール大学の共同研究の成果は、Tissue Engineering Part Aに2019年11月1日付けで掲載されました。
3D bioprinting of a vascularized and perfusable skin graft using human keratinocytes
論文はアブストラクトのみ読めます。
今回はこのニュースを深掘りします。
目次
これまでの人工皮膚の問題点
バイオ3Dプリンタを使った人工皮膚の研究はこれまでにもされていましたが、問題は、バンドエイドのように剥がれ落ちてしまうことでした。
血管を備えていないと、人工皮膚は栄養を受け取ることができず、長期わたって生存できません。
今回のKarande教授らによる研究のスゴイところは、
●血管を備えている人工皮膚であること
●マウスに移植したところ、マウスの血管と人工皮膚の血管が接続したこと
●4週間後に栄養や血液の供給を認めたこと
の3点です。
血管を備えた皮膚のバイオプリントに成功
Karande教授が2013年に発表した皮膚モデルでは、ケラチノサイト・線維芽細胞をバイオインクとして、3Dプリントするものでした。
ケラチノサイト、線維芽細胞はどちらも「皮膚を作る」成分です。
ケラチノサイト・線維芽細胞の役割
線維芽細胞は皮膚の「真皮」を構成するうえで欠かせない成分です。
真皮には、うるおいをあたえるコラーゲン、みずみずしさに欠かせないヒアルロン酸、ハリに大切なエラスチンといった、女性なら関心のある成分がぎゅっと詰まっています。
これらの成分をつくるうえで欠かせないのが線維芽細胞です。
これに対し、ケラチノサイトは「表皮」を構成する細胞です。
表皮は一番外側にある0.2mmほどの薄い膜。
外部からの異物の進入を防いだり、水分の蒸発を防いだりなど、バリア機能を果たしています。
2013年の研究では、線維芽細胞とケラチノサイトをバイオインクとして、表皮・真皮を再現していました。また、真皮の構成成分となるコラーゲンもあわせて使用していました。
ここで、皮膚の構造をよく見ると、当たり前ですが、皮膚にも「血管」がありますよね。
論文によると、2013年にプリントした皮膚モデルは、形態学的、生物学的にも、in vivoのヒトの皮膚組織を再現するものでしたが、血管までは再現できていませんでした。
そうして今回、血管も備えた皮膚の3Dプリンタに成功しました。
今回のポイントとして、新たに2つの細胞を加えています。
・血管内皮細胞
・ペリサイト
血管内皮細胞は血管の内側にあり、血管が血管であるために欠かせない細胞です。血管にとっての心臓のようなものです。
ペリサイト(周皮細胞)はイラストのように、血管内皮細胞を取り囲み、血管内皮細胞にぴったりくっついています。
この2つは血管を再現するうえで、欠かせない細胞です。
今回の研究では、新たに血管内皮細胞とペリサイトという2つの重要な要素を追加しました。
流れとしては、
ステップ1:線維芽細胞・血管内皮細胞・ペリサイト・コラーゲンを含む第1のバイオインクをプリントして真皮を形成
ステップ2:ケラチノサイトを含む第2のバイオインクをプリントして表皮を形成
すべてヒト由来の細胞を使用しています。
血管内皮細胞、ペリサイトが自己組織化によって内部が相互につながった血管構造を形成し、ケラチノサイトがバリアを再現します。
第1のバイオインクで血管付きの真皮を作り、第2のバイオインクで皮膚の上側を作っていくイメージでしょうか。
自己組織化というのは、細胞が自発的に秩序ある状態を作り出すことをいいます。
たとえば、DNAは二重らせん構造をしていますが、情報を伝えるときには二本鎖がほどけ、再び二重らせん構造となります。これも自己組織化の一例です。
この人工皮膚を免疫不全マウスに移植したところ、皮膚の血管がマウスの毛細血管と接続し、4週間後にはマウスから血液や栄養が人工皮膚の血管に移動していることがわかりました。
免疫不全マウスを使用するのは、この人工皮膚はヒト由来の細胞からつくられているためです。免疫機能を抑えたマウスを使用しないと、拒絶反応が出てしまいます。
そのため、臨床で応用するためには、ドナー細胞がレシピエントから拒絶されないように、ドナー細胞をCRISPRなどのツールを使って編集する必要があります。
この人工皮膚は特に、糖尿病の合併症である潰瘍や、床ずれなどに役立つとされています。
これらの損傷部位は、現在は、小さな皮膚で対応していますが、血管を備えた人工皮膚はピッタリな治療法になるとKarande教授は話しています。
CELLINKのBIO-Xを使用
ちなみに、今回の研究で使われたのはCELLINKのBIO-Xです。
2019年で記憶に新しいバイオプリンティングの成果としては、心臓と血管、肺胞と血管を同時にプリントするものがありますね。
今回の研究は、皮膚と血管を同時に3Dプリントするという点がポイントでした。
個人的に、2019年のバイオプリンティングのトレンドは「血管を備えた」であったと思います。
2020年以降は、ゲノム編集技術も使い、ヒトに移植できる臨床応用に向けた研究も活発になっていくでしょうね。
バイオプリンティング市場が今後も伸びていくのは間違いありません。引き続き注目していきます!
※アイキャッチ画像の出典:https://youtu.be/7uM9HDmBeVE
【参考】
3D bioprinting of a vascularized and perfusable skin graft using human keratinocytes
Design and Fabrication of Human Skin by Three-Dimensional Bioprinting
Living skin can now be 3D-printed with blood vessels included
http://www.jsth.org/glossary_detail/?id=25
Bioprinting advanced skin architecture complete with blood vessels using CELLINK technology