サイトカインを3Dプリンタで造形してみた ー薬剤師国試でも「本質」理解を重視しようー
次の1文は、薬剤師国家試験の選択問題から抜粋したものです。
この1文は正しいでしょうか、誤りでしょうか?
【問題】IL-2(インターロイキン-2)は、キラーT細胞の増殖及び分化を抑制する。(国試問118より)
※解答は後半で
インターロイキンはIL-1~IL-18とたくさんの種類があります。国家試験では、その違いを理解しているかを問う問題が出されます。
薬剤師国家試験は黒本を何度も繰り返し解くことで、本質を理解しなくても、「正解」を導くことができます。集中的な勉強が必要ですが、量をこなせば試験で高得点を獲得することは可能です。
事実、私は大学4年(当時は4年制でした)の秋まで学業に専念せず、11月の模擬試験で後ろから10位以内という衝撃の結果を目にして、ようやくお尻に火がつきました。卒業試験、国家試験までの4ヵ月強、学校のない日は1日15時間の勉強で乗り切りました。
このことからおわかりのように、卒業試験、国家試験を短期的に乗り切ることは実現可能です。しかし、私は大学生活で本当の学びをしなかったことを今、心底後悔しています。
薬学部の勉強は、専門課程が多く、私はついていくのが大変でした。その本当の理由は、学部の「学び」を楽しいと思えなかったからです。
しかし、社会人になり、ちょっとしたスイッチで、学びが極上の楽しみになることを経験しました。そのコツは、小さな好奇心と、少し調べてみること、そして「へえ~そうなんだ」を体験することです。この経験を1度すると、好奇心のスイッチが自動的にONになり、勉強が加速します。
それについては別の機会に書くとして、今回は、冒頭で登場した「インターロイキン」について、もう少し多角的に見てみたいと思います。
目次
インターロイキンとは?
インターロイキンとは、サイトカインの一種です。
この回答、答えているようで答えになっていないと思いませんか?
「男とは何ですか?」
「女でないものです」
という答え方と同じ気がします。
つまり、サイトカインが何かわからないと理解できませんよね。
では、サイトカインとは何でしょうか?
サイトカインとは?
サイトカインは、細胞から分泌されるたんぱく質で、別の細胞に働きかけて、その細胞が大きくなったり、パワーアップしたり、変身したり、必要なものを買ったりするのを助けるものです。
ここで、村をイメージしてみましょう。
一軒一軒が離れています。それぞれの家に、届けたいモノがあるとき、宅配屋さんが手紙や荷物を運んでくれますよね。これは都市でも同じことですよね。
人が少ない地域でも、密集した都市部でも、宅配屋さんが必要なモノを届けてくれます。つまり、私たちが自宅にいながら必要なものを受け取るためには、何らかの「媒体」が必要ということ。ここで活躍しているのが宅配屋さんというわけです。
サイトカインにも同じことがいえます。サイトカインは、ある細胞から別の細胞へ「必要なモノ」(信号)を届ける役割をもっているのです。細胞が動いて情報を伝えられないのに代わり、いろいろ動き回ってくれるのです。
宅配屋さんを取り巻く概念をマインドマップにまとめてみると、次のようになります。
宅配屋さんに、「種類」、「送り元」、「届けるもの」があるということは、似た概念である「サイトカイン」にも同様のことがいえるはず、と考えられます。
サイトカインをマインドマップにまとめてみると、、、
複雑そうなものわかりやすく分解するための3つのポイント
このようにまとめると、サイトカインのごちゃごちゃわかりづらい分類は、要するに宅配屋さんの「種類」に相当し、サイトカインを産生する細胞は、どこから荷物を発送するか?という「送り元」に相当することがわかりますね。物流センターだったり、東京八王子の営業所だったり、海外だったり、いろいろな「送り元」があります。
こんな風に、身近なものと結びつける、マインドマップにしてみると、種類が多くてわかりづらかった「サイトカイン」が少しはイメージしやすくなりませんか?
このように、複雑で、難しそうな概念を学ぶとき、次の方法が大変有効です。
・身近なもので例えられないか考えてみる
・一般化してみる
・共通項をさがしてみる
バイオ分野では複雑な概念がたくさん登場します。毎回この方法を適用するのは、時間もかかりますし得策とは言えないでしょう。しかし、サイトカインのように、重要な基本概念については、ぐらつくことのない土台を築いておく必要があります。ここで注意が必要なのは、「細かく調べる」前に「大まかな概念を把握すること」。
学ぶ対象が難しそうで、「うっ」と抵抗を感じたときは、まずは落ち着いて、身近なものに例えられないか?と考えるのがおすすめです。一般化してみると、思わぬ共通項が見つかることもあります。実のところ、「サイトカイン」をマインドマップにして初めて、私は「宅配屋さん」と共通項があることに気付きました。
改めて、インターロイキンとは?
では、今回のお題である「インターロイキン」。
ここまでの議論で、インターロイキンは宅配屋さん(サイトカイン)の1つであり、「ああ、ヤマト運輸のようなものなのだな」ということがわかりますよね。
身近なもので一般化して、共通項がわかりました。
すると次は、
「では、インターロイキンは、どこから出発しているのだろう?」という疑問がわいてきませんか。
こうなったらしめたもの。概念同士の結びつけができているということですから。(私も毎回うまくできるわけではありません。習慣にできるよう、一緒にがんばりましょう)。
インターロイキンはリンパ球やマクロファージなどの免疫担当細胞より産生されます。
ここでようやく、冒頭の問題に戻りました。
インターロイキン-2は、T細胞、B細胞、マクロファージ、NK細胞を活性化します。
イラストで理解を深める
インターロイキン-2が関与する部分に焦点をあてた、海外のビデオがとてもわかりやすかったので、スクリーンショットを使ってご説明します。
①病原体が侵入!マクロファージが病原体を捕獲します。
②マクロファージが抗原を提示します。
③ヘルパーT細胞も同じ抗原を認識し、互いに手をつなぎます。「力を合わせて病原体をやっつけようぜ!」と協力します。
④マクロファージがインターロイキン-1を分泌します。
⑤インターロイキン-1がヘルパーT細胞に働きかけて、インターロイキン-2を分泌します。
⑥インターロイキン-2が、キラーT細胞、B細胞を活性化します。
ざっくりですが、こんな感じ。
1枚に図解化したのがこちら。
出典:Associate Degree Nursing Physiology Review
ここまでみてみると、国試の問題は、正しくは次であることがわかりますね。
こうやって勉強していると、「では、インターロイキン-1をもっと調べてみたいな。インターロイキン-3はどんな違いがあるのだろう?」と、勉強が止まらなくなります。
3Dプリンタでサイトカインを造形してみた
そもそも、インターロイキン-2はどんな構造なのでしょう?
ちょっと気になったので、3Dプリンタで造形してみました。
データはこちらから。
これは造形直後の、サポート材をはずしていない状態。
サポート材を外していきます。
サポート材を外した状態がこちら。
あれ・・・?↓
元データのようにくっついた状態を保持しながらサポート材を除くことはできませんでした・・・。
本当はこのようになるはずでした↓
出典:https://www.thingiverse.com/thing:731325
これだけ生命体は複雑にできているということですね。3Dプリンタでちょちょいと造形して、再現できるほど甘くないぜ!と言われている気がしました。
今回の記事、気づいたら大学生の頃の自分に向けて書いていました。勉強が楽しくないという方の参考になればとても嬉しいです。
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