ラクトースオペロンの仕組みをわかりやすく解説【意義を考えると感動する】
今回は、ラクトースオペロンの仕組みについて、生物学的な意義から考えてみます。
ラクトースオペロンはトリプトファンオペロンよりも複雑にみえますよね。
ラクトース・グルコースそれぞれの有無によって、大腸菌がどう発現を調節すれば、エネルギーを効率的につくれるか?という観点からみると、わかりやすくなります。
難しい言葉をなるべく使わず、ラクトース・グルコースの有無によって、どう制御されているかをわかりやすく解説しました。
目次
ラクトースオペロンの意義はなんだろう?
ずばり、ラクトースを分解してグルコースを作り、エネルギー源とするため。
これは、ラクトースという物質に注目するとわかりやすいです。
ラクトースはラクターゼという酵素によって、グルコースとガラクトースに分解されます。
つまり、ラクトースオペロンは、ラクトースを利用してグルコースを作り、エネルギー源にするためのシステムです。
すると、ラクトース・グルコースのあるなしによって、4つのパターンが考えられますね。
大腸菌が4パターンの環境にどのように対応すれば、エネルギーを節約できるのか?という観点で考えてみると、生物は実によくできていると感動すると思います。
さっそくみていきましょう。
【ラクトースあり+グルコースあり】の場合
1つ目は、【ラクトースあり+グルコースあり】の状態。
このとき、大腸菌はラクトースを分解する必要はありませんよね?
理由はグルコースが存在するからです。ということは、ラクトースを分解するためのラクトースオペロンを発現させないのがベストですよね。
ラクトースもグルコースもあるため、これらを作ろうとする仕組みは作動しません。
【ラクトースなし+グルコースあり】の場合
2つ目は、【ラクトースなし+グルコースあり】の状態。
ラクトースはありませんが、エネルギー源となるグルコースがあるため、大腸菌はラクトースを分解する必要はありません。
つまり、ラクトースオペロンはOFFとなります。ラクトースオペロンが転写されないように制御することから、負の制御と呼ばれます。
どのようにOFFにするか、みてみましょう。
【グルコースあり+ラクトースなし】のとき
ラクトースを分解する酵素をオペロンに作らせないように、リプレッサーがオペレーターに結合します。
すると、RNAポリメラーゼはプロモーターに結合できず、ラクトースオペロンの発現が抑制されます。
このとき、リプレッサーはオペレーターに結合できるので、活性状態にあります。
後で改めてまとめますが、トリプトファンオペロンとの違いは、ラクトースオペロンの場合、リプレッサーは単体でオペレーターに結合できることです。
【まとめ】
グルコース(+)/ラクトース(-)のとき
→リプレッサーがオペロンをOFFにする
【理由】グルコースがあるから、ラクトースオペロンを発現させる必要がないし、そもそもラクトースがない
【ラクトースあり+グルコースなし】の場合
今度は【ラクトースあり+グルコースなし】の状態です。
グルコースがないので、ラクトースを分解するために、ラクトースオペロンがONになります。
【ラクトースあり+グルコースなし】のとき、どのようにオペロンがONになるのでしょうか?
まず、グルコース濃度が低いとき、cAMPの濃度が上昇します。増えたcAMPはアクチベーターであるCAPに結合します。
アクチベーターとは、遺伝子を「目覚めさせる」タンパク質です。
遺伝子にとって目覚ましとなるアクチベーターは、普段は自分も眠っています。cAMPと結合したときだけ、アクチベーターはDNAに結合できます。
アクチベーターがDNAに結合すると、RNAポリメラーゼが効率よくプロモーターに結合できるようになります。
こうしてオペロンがONとなり、ラクトースを分解するための酵素がつくられていきます。
また、ラクトースがある状態では、リプレッサーはオペレーターに結合できません。
※リプレッサーがオペレーターに結合すると、オペロンOFF → ラクトースは分解されません。
リプレッサーとは、遺伝子を「眠らせる」タンパク質です。
トリプトファンと違い、ラクトースオペロンのリプレッサーは、単体のときに活性で、ラクトースが結合すると不活性になります。
※トリプトファンリプレッサーは逆で、トリプトファンと結合しないと活性状態になりません。
ラクトースの存在によって不活性になったリプレッサーはオペレーターに結合できないため、ラクトースオペロンはONとなり、ラクトースが分解されます。
参考に、トリプトファンの場合👇
【まとめ】
グルコース(-)/ラクトース(+)のとき
→cAMP濃度が上昇 → アクチベーターがDNAに結合
→RNAポリメラーゼがプロモーターに結合
→ オペロンON
同時に、
リプレッサーがオペレーターに結合できない(ラクトースがあるから)
→ オペロンON
2つの仕組みで、オペロンがONになっていますね。
【ラクトースなし+グルコースなし】の場合
グルコースがない場合は、
でしたね。
ところが、今回は肝心のラクトースがありません。
ラクトースがなければ、アクチベーターがオペロンをONにしても、意味がないわけです。
ラクトースがないのに、ラクトースを分解する酵素をつくるためのオペロンをONにすることは、生物にとってエネルギーの損失ですよね。
つまり、ラクトースオペロンをOFFにする必要があります。
リプレッサーがオペレーターに結合し、オペロンがOFFになります。
繰り返しですが、ラクトースがないので、リプレッサーは活性状態です。
個人的に、この仕組みには感動しました。
トリプトファンオペロンについては、こちらの記事をご覧ください。
今回は以上となります。
【参考】
カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)
こちらの記事もおすすめ