【日本】3Dプリンタで家を作る動き ー大林組の技術をご紹介ー
3Dプリンタを使って家を作るニュースを目にすることが増えました。
ドバイ、フランス、ロシア、中国など多くの国で、3Dプリンタを使った家が建設されていますね。
地震大国の日本はどうなのだろう?と思って調べてみたところ、日本企業の中にも3Dプリンタを建築に利用する動きが進んでいることがわかりました。
私が調べた限りでは、大林組と前田建設工業などが3Dプリンタの建築応用を進めていますが、まだ住宅の建築にはいたっていません。
しかし、大林組技術研究所報には「今後も、実構造物の製造に向けた取り組みを継続して行う」とあり、今後の動向が気になります。
今回は、数年前より3Dプリンタの建築利用に取り組んでいる大林組の特許をご紹介します。
目次
大林組の技術のポイント
大林組は2017年10月に専用セメント材料を使う3Dプリンタを開発しています。
今回は装置ではなく、セメント材料に注目。
大林組の技術のポイントは、セメントと水を混ぜる特殊モルタルにあります。
特殊モルタルには次の2つの特性が求められます。
・流動性
・自立性
流動性は、ポンプで圧送するときの押し出しやすさ、
自立性は、積層後に崩壊せず、自重により変化しないために必要です。
つまり、チクソトロピック性が求められます。
チクソトロピック性とは、圧力をかけられた状態では流動性があり、圧力から解放されると粘性が生じ、その後固くなり形状が維持される性質をいいます。
ノズルから押し出されるまでは流動性を維持し、押し出されたら短時間で固まる性質が求められるということ。
これができれば、型枠がなければ製造できなかったものを、3Dプリンタで製造できるようになります。
そこで、特許明細書(特開2018-140906)を読んでみると、大林組が開発した特殊モルタルのポイントは、下記物質の含有量・比率にありました。
・分散剤
・増粘剤
・カルシウムアルミノシリケート
分散剤
分散剤は、セメント粒子が集合しないように、ばらばらに分散している状態を保つために使用されます。
プラスに帯電したセメント粒子表面に、マイナスに帯電した分散剤が吸着し、静電気的な反発力によってセメント粒子が分散します。
大林組の特許によると、
リグニンスルホン酸系分散剤とメラミンスルホン酸系分散剤を100:100~250の比率で使用します。
メラミンスルホン酸系分散剤の配合量が少なすぎると、流動性を得るために分散剤がより必要になります。逆に配合量が多すぎると、流動性が高くなりすぎるため、凝結が遅延し、積層後の自立性を確保できなくなります。
つまり、各分散剤の比率がポイントになっています。
増粘剤
増粘剤は、押し出される材料をつないだり、流動性を向上させたり、積層後の自立性を維持したりするのに役立ちます。
特許では、粘度が30000mPa・s以上のセルロースエーテル系増粘剤および/または天然多糖類系増粘剤を用いるのが好ましいとされています。
セルロースは植物に含まれる物質ですよね。
親水性を示すOH基をたくさん持っていますが、そのままでは水にとけません。これは分子間でOH基同士が水素結合を作り強固な結晶をつくっているため、セルロース分子間に水が入り込めないからです。そのため、水に溶解しません。
そこで、セルロースのOH基をメチル基やエチル基などで置換し、分子間で水素結合を作れないように分子構造を変えたものがセルロースエーテル系増粘剤です。結合する力が弱まっているため、水に溶けます。
天然多糖類系増粘剤としては、下記のダイユータンガムがよいとされています。
セメント全体に対する増粘剤の使用量も、チクソトロピック性の付与において重要になります。
カルシウムアルミノシリケート
カルシウムアルミノシリケートは、SiO2(二酸化ケイ素)、CaO(酸化カルシウム)、Al2O3(酸化アルミニウム)を混合したものを熱処理して得られます。
カルシウムアルミノシリケートに対する石膏の割合、
セメント全体に対するカルシウムアルミノシリケートと石膏の割合も、
積層後に自立性を確保するために必要なポイントとなっています。
最適な硬化時間を得るためにはSiO2の含有量が特に重要になるようです。
SiO2が少ないと、水和活性が高くなるとのこと。
➡つまり、水和によるセメントの硬化が早くなるため、固まらないようにする凝結遅延剤が増えます。
SiO2が多いと、水和活性が低くなるとのこと。
➡つまり、水和によるセメントの硬化が遅くなるということですね。
細かい点を見れば他にもありますが、主にこの3つがポイントなのかな、という印象でした。
3Dプリンタ製構造体は型枠使用のものより強度が大きかった!
この特殊モルタルを使って、平行方向、垂直方向に積層した構造体の曲げ強度を比べてみたところ、どちらも大きな違いはなかったようです。
曲げ強度とは、曲げようとする力に耐えられる力の大きさのことですね。
剛性は材料の種類で決まりますが、強度は熱処理や水の含有量などによって変わります。
対照とした「標準」は、型枠に通常の打込みで製作したものです。グラフからは型枠使用のものより、3Dプリンタで積層したものの方が曲げ強度が大きくなっていますね。
これってすごい結果ですよね。型枠を使用する手間、人手を減らせるだけでなく、強度もアップするということですよね。
実際に3Dプリンタで製造されたアーチ状ブリッジです。
大林組技術研究所報(No.82 2018)によると、「今後も、実構造物の製造に向けた取り組みを継続して行う」とあります。住宅も視野にいれているということでしょうか?
他の日本企業の取り組み
大林組の他に、前田建設工業もコンクリート用の3Dプリンタと専用セメント材料を開発しています。
地震の多い日本だと、住宅を3Dプリントするのは現実的でない気がしますが、型枠不要で構造物を製造できる3Dプリンタの導入は今後も進みそうですね。
長期的に住む家を3Dプリンタで作るのは不安がありますが、災害時の仮設住宅を建設する、というニーズはありそうですね。
今回は大林組の3Dプリンタ用セメント材料の特許をご紹介しました。
前田建設工業の建築3Dプリンティングに関する技術はこちらからどうぞ。
【参考】
セメント系材料を用いた 3Dプリンターによる部材製造技術(大林組技術研究所報 No.82 2018)
特開2018-140906(建設向け立体造形用セメント質材料及び建設向けの立体造形方法)
http://www.metolose.jp/industrial/metolose.html
高精度で自由形状に自動打設 コンクリート3Dプリンターを開発(前田開発)
※アイキャッチ画像の出典:https://www.realestate.com.au/news/totally-3d-printed-house-created-in-china-over-45-days/
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