【3Dプリンタを利用】結合双生児の分離手術に成功 ー医療で活用が進む3Dプリンター
こんにちは、あゆみです。4台の3Dプリンタに囲まれて生活しています。
イギリスで、頭部が結合した双子の分離手術に成功したというニュースがありましたね。
この手術で活躍したのは3Dプリンタ。
3Dプリンタと分離手術がどのように関係しているのでしょうか?
調べてみたら、なるほど納得。
手術前に脳や血管の位置を確認したり、シミュレーションしたりするための脳モデルを作るために使われていました。
今回は医療をテーマに、この手術の流れから、ほかの医療での応用、さらに教育での活用方法をご紹介します。
【3Dプリンタを利用】頭部結合双生児の分離手術に成功
2017年に生まれた双子の女の子。
お腹の中にいるときには、双子だとわからなかったようです。
出産時に初めて頭部が結合していることが判明。それから約2年たち、二人はようやく互いの顔を見られるようになりました。
2人の分離手術で使われたのは、VRと3Dプリンタです。
VRは、脳や血管の位置を決めたり、頭蓋骨の構造を確認するために、
3Dプリンタは、手術のシミュレーションのために使われました。
どのように分離させたのか、ざっくりまとめました。
手術は全部で3回。
まず、2人の頭部がどのように結合しているのか、脳や血管の構造を確認します。
次に、脳と血管を分けるために2回手術を実施しました。
脳と血管が分離された状態を維持できるように、プラスチックを挿入しました。
次にティッシュー・エキスパンダー法によって、皮膚に下に風船をいれて膨らませることで、皮膚を伸展させました。
※これは妊婦さんのお腹が徐々に大きくなっていくのと同じ原理です。
皮膚を伸展させてから、2人を分離させました。これが3回目の手術です。
結合双生児が生まれる確率は250万人に1人の確率のようです。
その確率もすごいですけど、それを解決できる現代のテクノロジーもすごいですよね。
さまざまな手術に活用される3Dプリンタ
結合した双子を分離する手術に3Dプリンタが使用したケースは、他にもあります。
いずれのケースでも、
あらかじめ結合部位の臓器を3Dプリントして、血管や構造を確認したり、事前シミュレーションに使っています。
たとえば、これは生後13ヵ月の結合双生児を分離するためにプリントした脳モデル。
今回のイギリスの事例のように、頭部が結合した双子の分離手術が2002年に米国でも実施されていました。
頭部分離手術で特に難しいのが、血管を分類し、血流のルートを変えることです。
血管は交差して、複雑に入り組んでいるため、2次元データでの確認には限界がありました。そこで活用されたのが3Dプリンタです。
これは手術に先立ち、3Dプリンタで作られたモデルです。
骨は硬い材料、血管は軟質の材料で作られています。
専門の医師それぞれが、目的に応じて頭部モデルを活用します。
形成外科医は、どのように分離するか、どのように皮膚を切開するかを確認するため、
神経外科医は、血管をどのように再建するかを確認するために、立体モデルを使いました。
3Dプリントしたモデルを使うことで、本来であれば97時間かかる手術時間を22時間に短縮できたようです。
15年以上前にすでに、3Dプリンタが手術に活用されていたのですね。
3Dプリンタの医療への応用は、結合双生児の分離手術に限らず、疾患治療にも使われています。
👇これは、50代女性の脳にできた動脈瘤をプリントしたもの。
動脈瘤とは、血管にできたこぶのようなもの。破裂すると、くも膜下出血を引き起こし、命にかかわります。
この脳動脈瘤モデルを使って事前に確認することで、手術による侵襲や切開範囲を最小限に抑えることができたという報告もあります。
医療で活用が進む3Dプリンタ
医療での3Dプリンタの応用は、手術での利用から、臓器をつくるバイオプリンティングまで、本当に幅広いですよね。
カテーテルを挿入できる臓器モデルや、
切開したときの出血も再現できる臓器モデルなど、さまざまです。
3Dプリンタの登場によって、倫理的に問題のない方法によって、手術シミュレーションが可能となっているのはすばらしいことですよね。
手術や臓器をつくる再生医療だけでなく、
・生体と融合する人工骨の開発や、
・見た目を損なわない透明プラスチックでできた歯科矯正アライナーなど、
3Dプリンタは医療分野にますます浸透しています。
治療や手術シミュレーションだけでなく、
3Dプリンタは、医療教材としても使われています。
たとえば、下記は無料データを光造形で3Dプリントしたもの。
※光造形とは、3Dプリンタの印刷方式の1つのことです。透明な樹脂に光をあてて固めていきます。
歯科の勉強に使えますよね?
これをプリントしながら、患者が自分の歯モデルを自宅でプリントして、歯医者にどこがどうかみ合わないのか説明する日も来るのでは?なんてことを考えました。
ありえない話ではないと思います。
これは、心臓モデル。これも無料データをプリントしたものです。
プリント技術を上げれば、内部構造を確認できる心臓モデルを自宅で作れてしまいます。
ラストは私がモデリングした桑実胚と8細胞。
👆桑実胚(左)のモデリング、実はとっても簡単です。
理科嫌いな生徒に胚のモデリングに取り組んでもらったら、理科に対する興味を引き出せる気がします。
興味を引き出したり、学ぶ意欲をつけたりしてもらうのにも、3Dプリンタの活用価値はありますね。
ちなみに、米国はこの点で進んでいます。
米国の子供向けの導入本には、3Dプリンタが実現する医療について書かれており、さすがです。
Cutting-Edge 3D Printing (Cutting-Edge STEM; Searchlight Books)
※ペーパーバックが安くておすすめです。
30ページの薄い本なのですが、よくできています。
今回は医療での3Dプリンタの応用事例をご紹介しました。
医療といっても、果てしなく広い分野ですので、1つずつ深掘りしてご紹介していく予定です。
【参考】
GOSH-Separating conjoined twins
3-D printing and the future of stuff
Conjoined twins’ operation planned using the Objet QuadraTempo™ RP System
https://www.biomodel.com/news.html