【RNA干渉】miRNAとsiRNAの共通点・違いについてシンプルに考えてみる
DNAの情報はRNAにコピーされて、それを元にタンパク質がつくられますよね。
RNAからタンパク質が合成される過程を「翻訳」といいますが、RNAの中には翻訳されないものもあります。
今回注目するのは、翻訳されないRNAである、miRNAとsiRNAです。
miRNAについては、こちらの記事でご紹介しました。今回は両者の違い・共通点に注目します。
まず、miRNAとsiRNAの共通点からみていきます。
miRNAとsiRNAの共通点
miRNA、siRNAどちらも、遺伝子の発現を抑制するという点では同じです。
その流れをイラストにすると次のようになります。
これは『エッセンシャル細胞生物学』p283にあるイラストを手書きで書いたものです。
2つを比べると、どちらも似たメカニズムですね。
【miRNAの場合】
①細胞質を出た後に、二本鎖の状態から加工されて、一本鎖のmiRNAとなります。
②一本鎖miRNAはRISC複合体というタンパク質に取り込まれて、相補的な配列を持つmRNAを探します。
【siRNAの場合】
①外来の二本鎖RNAが分解されて短いRNA断片となります。
短く分解された外来の二本鎖RNA断片がsiRNAです。
②miRNAと同様に、RISC複合体に取り込まれて、相補的な配列を持つmRNAを探しにいきます。
一本鎖、二本鎖の違いはありますが、miRNA、siRNAどちらも、RISC複合体にとりこまれて、相補的な配列を持つmRNAを探しに行く、という点では同じですよね。
ちなみに、イラストでsiRNAは一本鎖の状態でRISC複合体にくっついていますね。細かく書くと、RISCはsiRNAを取り込んだ後、一方の鎖を捨て、残った一方を利用して相補的なmRNAを探しています。
では、miRNAとsiRNAの違いは何でしょうか?
miRNAとsiRNAの違い①
大きな違いは、
miRNAはmRNA配列に部分相補的に結合しますが、siRNAはmRNA配列に完全相補的に結合します。
miRNAは、部分的に一致するmRNA配列に結合してmRNAを分解するので、1種類のmiRNAがさまざまなmRNAの遺伝子発現に関わっています。
一方、siRNAは完全に一致するmRNA配列に結合します。
ほかにも違いがあるので、見ていきます。
miRNAとsiRNAの違い②
由来とターゲットに、「中」と「外」の違いがあると思っています。
※いろいろな資料・教科書を読んだうえでの私の解釈です。もし誤りがありましたら修正します。
・miRNAのターゲットは、細胞の中でつくられるRNAであるのに対し、siRNAのターゲットは外来のRNAである
・miRNAはゲノム上にコードされていて生体内で作られるのに対し、siRNAは外来RNAからつくられる
海外の資料もいろいろ見た結果、大きな違いは「中」か「外」ではないかと思いました。
この違いをふまえると、
miRNAは部分的に一致するだけで、さまざまな遺伝子の発現を調節できる➡遺伝子発現調節の効率性アップにつながるのでは?
siRNAは完全に一致するmRNAのみ切断し、感染から自分を守る➡防御力アップにつながるのでは?
と、個人的に納得です。
(miRNAの働きはまだすべて解明されていません)。
※合成したsiRNAは遺伝子ノックダウンで使われていますが、上記はあくまで「自然発生する」siRNAに着目して考えました。
miRNAとsiRNAの違い③
miRNAは哺乳類、植物にありますが、siRNAは植物・下等動物にはあるものの、哺乳類にあるかは解明されていません。
注意が必要なのは、遺伝子ノックダウンにおいて使用される「siRNA」は「合成されたsiRNA」であるという点です。
※遺伝子ノックダウンとは、特定の遺伝子の機能を抑える技術のことです。
siRNAが哺乳類にあるかはわかっていませんが、植物などには存在が認められています。つまり、自然発生するsiRNAは存在するわけで、「すべてのsiRNA=合成された」ではありません。
miRNAとsiRNAの違い④
冒頭で述べたとおり、
miRNAは一本鎖、siRNAは二本鎖です。
RNA干渉(RNAi)とは
上記のように、mRNAをターゲットとして破壊して、遺伝子発現を抑制する仕組みをRNA干渉(RNAi)といいます。
植物や線虫など、広い範囲で生物にみられる、細胞の防御システムです。
教科書によっては、RNA干渉に関与するのはsiRNAと書かれているものもありますが、miRNA・siRNAどちらもRNA干渉(RNAi)に関与しています。
ちょっと余談ですが、RNA干渉で思い浮かべるのは、CRISPR-Cas9(クリスパーキャス9)を見つけたジェニファー・ダウドナ。
ダウドナの専門はRNA干渉でした。
RNA干渉が”RNA”をターゲットとすることから、CRISPR-Cas9も当初、RNAをターゲットとするのではないか、と考えられていたようです。
クリスパーを発見したもうお一人、微生物を専門とするエマニュエル・シャルパンティエが、ダウドナに共同研究を持ちかけた理由は、ダウドナがRNA研究で有名だからでした。
CRISPR-Cas9の理解を深めるためにも、RNA周辺についてはもっと勉強していきます。
【参考】
siRNAとmiRNAの違いは何?RNA干渉(RNAi)に関する基礎知識
siRNA Versus miRNA as Therapeutics for Gene Silencing
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