3Dプリンタの原理、方式を超わかりやすく解説!

3Dプリンタという言葉はすっかり市民権を得ていますよね。

私が3Dプリンタに関心を持ったのは、臓器作製ができるバイオプリンティング技術を知ったことがきっかけだったと思います。それ以来、3Dプリンタの可能性の大きさを感じながら、自分が腑に落ちるレベルまで理解するには至っていませんでした。

そこで、今回は誰もがイメージできるように身近な例えを使って3Dプリンタについて紹介する記事を書いてみました。
記事を書く過程で、私は自分が見落としていたある重要な点にも気づかされました。それについては後半で触れます。

それではまず3Dプリンタについて気楽に見ていきましょう。

3Dプリンタを一言で言うと?

ずばりミルクレープです。

クレープ1枚1枚は平面的なものですよね。

ところが、クレープとクリームを交互に積み上げていくと、立体的な「ケーキになりますね。

このように、平面的なものを重ねて、立体を作り上げるものが3Dプリンタ。
つまりミルクレープは、3Dプリンタによって造られる造形物をイメージさせる1つの例といえます。

すると、スポンジ生地を重ねたケーキも、ミルフィーユも造形物ということになりますよね。

ここで、ミルフィーユミルクレープの違いにご注目。

ミルフィーユの方が層と層の距離が長いですね。

出典:マルエツ

ミルフィーユよりもミルクレープの方が、フォークで切る時に「スッ」とフォークが入りやすいですよね。

これは層間距離の違いによります。この層と層の間隔のことを積層ピッチといいます。
積層ピッチが小さいほど、造形物の密度が高くなり、表面が滑らかになります。

ミルフィーユとミルクレープの例では、積層ピッチが小さいミルクレープの方が崩れにくい、つまり強度が増していることがわかりますね。

しかし、3Dプリンタはミルクレープ、ミルフィーユ、ホールケーキのイメージにはとどまりません。
3Dプリンタを別の角度から見てみましょう。

家庭にも普及している一般的な3Dプリンタは、シャルロットケーキのように、チューブから「生地」を押し出して、積層していきます。

出典:http://emojoiecuisine.hatenablog.com/entry/strawberry-charlotte

この写真では1層ですが、この上に2層、3層と積層していくことで、立体を作ります。

この方式は「材料押出法」と呼ばれ、通称FDM(Fused deposition molding)と呼ばれます。

3Dプリンタの場合、チューブから絞り出されるのは「樹脂」です。樹脂を熱で溶かして、絞り出していきます。
近年、材料の面から付加価値を出そうという動きが活発になっています。

従来のABS、PLAといった材料から、金属、セラミックをまぜたもの、バイオマテリアル、さらにはコンクリートを絞り出すことで住宅を造ることさえ可能になりました。

この写真はフランスでロボットアーム型の3Dプリンタ「BatiPrint3D」を使って住宅を建築している様子の写真です。

 

出典:http://batiprint3d.fr/en/

実際に住宅を建築している動画です。ゾクゾクして何度も見てしまいました。

こちらはロシアで3Dプリンタを使って建築された住宅。
所要時間はわずか24時間です。

出典:https://www.youtube.com/watch?v=nH-zpnoNLEU

上記の住宅は、押出法によるものでした。

FDMのように、押し出して積層していく方法以外にも、様々な造形方式があります。

 

注目される金属3Dプリンタ

子どもの頃、砂場でこんな遊びをしませんでしたか?

乾いた砂に水を垂らすと水が落ちたところが固まりますよね。

乾いた砂を取り除くと、下の写真のようにきれいではなくても、立体物を作ることができました。

私は水を垂らしては、乾いた砂をどかす遊びをよくやっていました。それまでサラサラとまとまりのなかった砂が、水を垂らすことで固まり、その周りのサラサラの砂をどかすと立体物ができるのが面白くて、繰り返しやっていたのを覚えています。

この方法は、一面に敷き詰められた砂に水を垂らすことで、望む場所のみ固まらせること。
これが、金属3Dプリンタに応用されているのです。

一面に金属粉を敷き詰め、硬化させたい金属粉にのみ、レーザーをあてていきます。
この方法はパウダーベッド法(PB法、別名:粉末床溶融結合法)と呼ばれています。

成形物がすっぽり入る、十分な原料粉を用意し、あとは砂場に水を垂らす感じで、レーザーをあてていきます。

サラサラの砂を取り除くと望みのものが出来あがるのと同様に、
PB法でも下の写真のように、最後に原料粉を取り除きます。これはPB法の最終プロセスを表したものです。

出典:https://youtu.be/wt9k4I3cgCs

PB法では、まず下のように、金属粉が敷き詰められた面にレーザーを選択的に照射します。

すると、レーザーが照射された部分の金属粉が溶融・凝固します。

出典:https://youtu.be/5KVb69CSTXU

次に、溶融・凝固が完了した層に被せるように、新しい金属粉を載せます。
そして、再度レーザーを照射。このプロセスを繰り返すことで、最終的に造形物が出来上がります。

出典:https://youtu.be/5KVb69CSTXU

積層完了後の様子です。

出典:https://youtu.be/5KVb69CSTXU

余分な金属粉を除き、造形物を取り出します。

すべて金属粉を取り除いた状態。

出典:https://youtu.be/5KVb69CSTXU

まさに、サラサラの砂を除き、水で固めた砂の部分だけを残した状態です。

PB法は原料を準備すれば、あとはレーザーをあてるだけという簡便さ故に広く利用されています。しかし、原料粉がたくさん必要である、という欠点もありました。

そこで、成形物に使われる、必要な原料粉だけ使って造形する方法が開発されました。

下の写真は、必要な分の粉末をレーザーの先端に向けて吹き付けながら積層していくパウダーデポジション法(PD法)を表しています。必要な分だけ使うという点では、樹脂を押し出しながら硬化させていくFDMに似ていますよね。

出典:https://youtu.be/d2foaRi4nxM

レーザー照射が終わった状態。

出典:https://youtu.be/d2foaRi4nxM

PB法、PD法は金属プリンタの造形方式として使われていますが、PB法は金属粉だけでなく、樹脂やセラミックを使用することもできます。

そもそも3Dプリンタの始まりは?

3Dプリンタでできる造形品や、方式をいくつか見てみました。

それでは、3Dプリンタのはじまりについて少し触れておきましょう。

最初に3Dプリンタの特許を出願したのは、小玉秀男氏でした。日本発なのですね。1980年のことです。
当時、まだ3Dプリンタという呼称はなく、「積層造形」と呼ばれていました。

現在では耳にすることも多い「光造形」技術。

これは、光を照射すると硬くなる樹脂を使い、造形していく方法をいいます。

といっても、わかりづらいかもしれませんね。
クリームブリュレをイメージしてみましょう。
そう、あの炎で表面を焦がすスイーツです。

出典:食べログ

Before 生地を蒸し焼きにした状態

出典:https://youtu.be/_tg0_vwYoRw

After  炎をあてて表面を焦がした状態

この「焦げた」部分。光を照射して、硬くなった樹脂、とイメージできないでしょうか。
「炎」が樹脂を硬化させる「光(レーザー)」ですね。

それでは改めて光造形について見てみましょう。

液体樹脂が入った容器の表面にレーザーを照射すると、表面の樹脂が硬くなります。

硬化させたい所望の部分にのみ、レーザーを照射して、硬化させていきます。
1層目が固まったら、台を下げて、表面の樹脂を硬化させていきます。
この繰り返しで、台が徐々に下がっていきます。

出典:http://www.cmet.co.jp/genri

上記方法は光造形の中でも、「液槽光重合法」と呼ばれます。
樹脂の入った容器表面に対し、レーザーを上から照射し、硬化する毎に台を下げていきます。

この方法では、容器いっぱいに樹脂を用意しなければならず、大量の材料を必要とする、という欠点がありました。この方法は「自由液面法」といいます。(「自由液面法」は、「液槽光重合法」を2つに分類したものの1つです)。

そこで、レーザーを上からではなく、下から照射する方法として、Formlabsから「規制液面法」の3Dプリンタが販売されています。

これはバームクーヘンを作る過程に似ているのですよ。

バームクーヘンの作り方ですが、まず表面を焼き上げ、生地の中に入れます。

出典:https://www.sennennoki.com/

焼きあがった層に新しい生地を上塗りします。この繰り返し。

出典:https://www.sennennoki.com/

出来上がったバームクーヘンは幾層にも上塗りされ、太くなりました。

出典:https://www.sennennoki.com/

先ほどの光造形法が、一層硬化させる毎にベッドが下へ下がるのに対し、「規制液面法」ではベッドが上へ上がっていきます。

出典:https://youtu.be/hAM4FD6Hwng

次の層を積層する時、必要な分の樹脂を供給すれば良く、「自由液面法」のように常に容器全体を樹脂で満たす必要はありません。

出典:https://youtu.be/hAM4FD6Hwng

いやあ、Form2ほしいですね。

バームクーヘンでは容器全体に生地が満たされていますが、上から造形物を吊り下げて、樹脂を付けていくイメージはバームクーヘンの製造工程に似ているのではないでしょうか。

しかし、「規制液面法」には、造形物が容器底面に貼り付いてしまい、造形途中にテーブルから造形物が剥がれてしまったり、容器底面に貼り付いた造形物を一旦上に持ち上げて剥がし、また降ろしてから樹脂を追加して、露光する、という煩雑さがあります。

ここまで見てきて、3Dプリンタの造形方式は、私たちの身の回りのアイディアを延長したもののように見えますよね。

ものづくりに変革を起こす3Dプリンタ

これまで3Dプリンタによる造形に焦点をあててきました。
ここで、もっと基本的な造形、つまり「モノを造る」ことについて考えてみましょう。

立体の造形方法は2種類に分類できます。

材料を切り取って造形する「引き算方式」と、付け足して固めていく「足し算方式」です。

引き算方式」の代表例はCNC(Computer Numerical Control)です。
材料を削り取って望みの形にしていく方法です。

足し算方式」の代表例は3Dプリンタです。
材料を必要な場所に積層させて、望みの形にしていきます。

出典:https://www.originalmind.co.jp/products/kitmill

先ほど見たように、3Dプリンタでは材料を「温めたり」、「冷却させたり」、「乾燥させたり」、「硬くさせたり」、「混ぜたり」していましたね。材料の面から付加価値を出そうという動きが活発なことは、2018年のものづくりワールドの展示会でも肌で感じることができました。

一方、CNCは、リンゴの皮をむいたり、ジャガイモの皮をむいて小さく切ったりする、包丁に似ています。

料理の時に、材料を「測る」道具が必要なように、造形物を造る際にも、目的とする造形物のサイズを正確に測る道具が必要です。この情報を読み取る装置が、3Dスキャナになります。

測り、様々な材料、包丁、材料を温めたり、混ぜたりする道具。これはまるでキッチンそのものではないでしょうか。

測り=3Dスキャナ

材料=造形物の原材料

包丁=CNC

加工具=3Dプリンタ

望みのものに材料を加工する3Dプリンタは、キッチンにある電子レンジに近いですよね。(家庭用3Dプリンタは見た目も電子レンジに似ていますね)。

しかし造形できるのは、食品だけでなく、住宅、航空分野にまで及んでいます。
また、従来の造形方法では最適化が難しかった形状、構造でも、造形を可能にするのが3Dプリンタの魅力です。

その1つが、エアバスとオートディスクが共同開発した航空機のパーテーション

出典:https://www.autodesk.co.jp/customer-stories/airbus

このパーテーションは、乗客の座席と乗務員のキッチンを隔てる壁に使われ、キャビンアテンダント用のシートも支えるため、強度が要求されます。

「バイオニックパーテーション」と呼ばれるこの部品は、文字通り、人間の骨の構造をヒントにしています。
哺乳類の骨は、圧力のかかる部分では密に、それ以外の場所は軽量になっています。

従来の造形法では、このような製造は難しかったのですが、3Dプリンタがこれを実現しました。
「バイオニックパーテーション」は従来のパーテーションデザインより45%軽量化を実現しています。

出典:https://www.autodesk.co.jp/customer-stories/airbus

出典:https://www.autodesk.co.jp/customer-stories/airbus

↑ストレスのシミュレーション結果を示したもの。

 

また、自動車分野でも3Dプリンタの活用が進んでいます。

アメリカの自動車メーカーローカルモーターズは、3Dプリンタで自動車LM3D Swim、Sratiを製作しています。

出典:https://youtu.be/TKkXRlli-aw

動画を見ると、車体を丸ごと印刷して作っている様子がわかります。圧巻ですよ。

「モノ」の物流から「データ」の物流へ

これまで3Dプリンタの本質を主に料理に例えて見てきました。
また、どのようなものが造れるのか、その1例をご紹介しました。

ここで、もう少し原点に立ち返って考えてみたいと思います。

3Dプリンタと聞くと、

「何を造れるのだろう?」
「今、どこまで応用されているのだろう?」

と思う方、質問を投げかける方が多いと思います。

私がまさにそうでした。

しかし、3Dプリンタを長年、情熱的に研究されている田中浩也さんの本を読んではっとしたことがあります。
これは遠藤諭さんがまとめられた3Dプリンタの可能性を示す図です。

出典:https://weekly.ascii.jp/elem/000/000/184/184433/

3Dプリンタと聞いた時に、私はAの「複雑なものも出力する」に意識を向けがちでした。

その一方で、

Bの「データは距離を超える」という側面にまだ十分フォーカスされていないのではないか、
と遠藤諭さん、田中浩也さんは指摘します。

3Dプリンタがネットワークの中で発揮する影響力について、意識していなかったことに気づかされました。

つまり、
3Dプリンタで「もの」を造るという行為を、ネットワークと結びつけて考えるということ。
これを遠藤諭さんは「データは距離を超える」と書かれています。

例えば、

娘さんとお母さんが、互いに別の場所に住んでいるとします。
2人とも3Dプリンタを持っています。

娘さんが、自分の子どもが書いた絵の画像データをメールでお母さんに送ります。
お母さんは受信したデータをもとに、3Dプリンタで娘さんが送ったデータを「造形」します。

離れて住んでいても、孫が書いた絵を「手にする」ことができるのです。

実際にこのようなサービスはすでに実用化されています。

出典:https://www.crayoncreatures.com/

データを送り、受領した人がデータを「形」にする。

つまり、3Dプリンタによって、「モノ」を「電子データで受け取る」ことが可能になったのです。

これまでの、「モノ」を梱包して、輸送していた「モノ」の物流に変わり、
3Dプリンタの登場によって「データ」の物流が登場しました。

これはまさに、遠藤さんが言うところの「データは距離を超える」に相当しますよね。

言われてみれば、当たり前じゃないというこの話。

私は田中さんの本を読みながら、「確かにそうだ!」と驚きとともに、3Dプリンタを再認識したのです。

発想を展開していくと、
住宅のデータを送ることで、アメリカとフランスで全く同じ住宅を建築することだって可能になるのかもしれません。

部品を減らす、製造コストを下げる、といった効率面の話だけでなく、
1つのコミュニケーションのツールとして、3Dプリンタがモノづくりを変えることの可能性に身震いしたのでした。

 

改めて3Dプリンタの本質を考えてみる

最後に、3Dプリンタをそれぞれ一言で表してみましょう。

3Dプリンタとは、ミルクレープである。

3Dプリンタとは、バームクーヘンである。

3Dとは、モノを輸送する障壁をなくすものである。

つまり、物流の障壁をなくすものである。

私はまだ、3Dプリンタの可能性の一端を知ったに過ぎません。
ごく一部を知っただけでも、3Dプリンタのこれからに胸が熱くなりました。

今後も引き続き、3Dプリンタの活用事例などについてレポートしていきます。乞うご期待!

 

【参考】
「SFを実現する 3Dプリンタの想像力」田中浩也著

「3Dプリンター AM技術の持続的発展のために」 丸谷洋二・早野誠治著

金属積層造形技術(3Dプリンタ)の最新動向(ARCレポート)

 

 

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公開日:2018年12月28日