3Dプリンタが実現するドラッグデリバリーシステム -胃内滞留デバイスー
3Dプリンタが製薬業界に浸透しはじめています。
私が最初に知ったのは、3Dプリンタで造形した錠剤「スプリタム(Spritam)」。スプリタムはすでにFDAに承認されています。
3Dプリンタで錠剤を製造できるなら、患者に合わせて複数の薬剤を含有するだけでなく、ゆっくり溶解させて身体に吸収される時間も自由にコントロールできるものを作れるのでは?と考えるのは研究者にとって自然なことかもしれませんね。
上記で書いたことを実現したのが、MITの研究者による3Dプリンタを活用したドラッグデリバリーシステム。
Bluetoothで体外からコントロール可能な胃内滞留デバイスです。
そこで今回は、この胃内滞留デバイスの内容を簡単にご紹介します。
これはWiley Online Journalに3D‐Printed Gastric Resident Electronicsというタイトルで2018年12月18日に掲載された論文です。
目次
3Dプリンタによって造形された胃内滞留デバイス
デバイスを摂取して体内に入れるという試みは1957年から行われてきました。しかし、体内の滞留期間が1週間未満という限界がありました。
今回発表された摂取可能なデバイスは、胃の中に最大で36日間滞留させることができるもの。体内に滞留した状態で、ワイヤレスで通信する最大期間は15.3日。
このような胃内滞留デバイスは以前より開発されてきました。
今回何が違うのでしょうか?
デバイスを3Dプリンタによって造形している点です。
出典:3D‐Printed Gastric Resident Electronics
このデバイスは三つのアームが付いたY字型。
うち1つのアームはドラッグデリバリーモジュールで、複数の薬剤を搭載し、薬剤を徐放します。
これにより、長期間にわたり注射による投薬が必要だった疾患も、このデバイスを使うことで投与できると期待されています。
プロセス ~造形から体外排出まで~
プロセスは以下の通り。
出典:3D‐Printed Gastric Resident Electronics
1 3Dプリンタでデバイスを造形(図a)
2 折りたたまれた状態で経口摂取される(図b)
3 幽門を通過して、胃に到着する(図c)
4 胃の中で折りたたまれた状態から展開される(図d)
5 最終的に体の外に排出される(図e)
最初は摂取可能なサイズで体内に取り込まれ、胃に到達すると、胃の中にとどまっていられるように、幽門の直径よりも大きいサイズに展開されます。
胃に到達すると、胃液で50秒以内に膨張して開いた状態に変身。
最終的にデバイスは胃で分解されて、体外に排出されます。
このデバイスは、Bluetoothなどで体外からコントロールすることができます。特別な措置は必要ありません。
生分解性プラスチックであるPLAと熱可塑性ポリウレタンを使ったFDM方式で造形されたデバイスです。
これまでの課題
このような摂取可能なデバイスを開発するにあたり、課題がいくつかありました。
1つ目の課題
経口服用時の折りたたまれたサイズから、胃に到達した時にすぐに展開させること。
2つ目の課題
胃酸環境にとどまっていられるだけの抵抗力を持たせること。
さらに副作用が発生した時に体外に排出できるサイズに分解されるように設計すること。
3つ目の課題
Bluetoothなど広く使われているデバイスと互換性を持たせること。
2つ目の課題にある、胃液という敵。
胃内滞留デバイスにとっては大敵ですよね。
どうやって解決しているのでしょうか?
ここで3Dプリンタを使います。
本来であれば胃液環境では壊れやすい材質のものでも、3Dプリンタで硬いポリマーと柔らかいポリマーを交互に積層させることで、接着力を高めています。
従来の胃内滞留デバイスでは胃酸環境に打ち勝つために、化学合成に頼っていたようです。
この論文によると、従来の3つの課題をすべてクリアしていますね。
1つ目の課題➡50秒で展開可能
2つ目の課題➡積層造形で胃酸に打ち勝つ構造に
3つ目の課題➡Bluetoothでコントロール可能
Bluetoothでつなぐことで、温度情報も「中継」することが可能です。
今回は短いですが、3Dプリンタ×ドラッグデリバリーという面白い論文の紹介でした。
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