細胞を遠隔操作する磁気ターゲティング技術とは?-グライナーのマグネット3D-
細胞を三次元的に配置させるために、磁性粒子が使われていることを知りました。
これは細胞に対する遠隔操作です。細胞表面に磁性粒子をあらかじめ結合させて、外部磁場によって細胞に直接触れることなく、細胞を操作・配置させることができます。
こんなスフェロイド作製方法があったのか!と興味深く調べていたら、2019年7月の再生医療展にグライナー・ジャパンが出展し、製品が展示されることを知りました。
そこで今回は、グライナー(ドイツ)のマグネット3Dの簡単なご紹介と、日本研究者による同様の研究事例をご紹介します。
目次
グライナーのマグネット3Dによるスフェロイド作製
外部磁場によって細胞を凝集させてスフェロイドを作製する手法は、テキサス大学のソウザが開発したものです。
酸化鉄、金、ポリーリジンから構成される磁性粒子を細胞培地に添加すると、磁性粒子が細胞表面に付着します。これを6時間~一晩、インキュベーションします。
磁性粒子が付着した細胞をウェルプレートに添加し、上部または下部に磁石を置くと、磁力によって細胞が培地中に浮遊し、スフェロイドを形成します。
15分~1時間ほどでスフェロイドが形成されるようです。
浮遊させて大型のスフェロイドを形成したり、バイオプリンティング用に小さなスフェロイドや、リング状にすることもできます。
ほぼあらゆる細胞で24時間以内にスフェロイドを形成できるようです。
特許明細書によると、磁性粒子は最終的に細胞から分離され、細胞は完全に天然の状態に戻るようですが、どのように戻すかは示されていませんでした。
日本研究者による細胞の磁性化
ソウザのように、一時的に細胞を磁性化する手法はこれまでにも開発されているようです。
その1つが井藤彰先生が開発したリポソームに磁性粒子を包埋したMCL(マグネタイトカチオニックリポソーム)。
正電荷を持ったMCLが負電荷の細胞に結合し、リポソームがエンドサイトーシス(細胞が細胞外の物質を細胞内に取り込むこと)の作用によってマグネタイト(磁性粒子、Fe3O4)を細胞内に導入します。
このようにしてMCLで磁性化した細胞を集積させて、細胞シートを作製しています。
細胞シートとは、東京女子医大の岡野光夫教授が開発したもので、温度変化で細胞シートを培養基材表面から回収できるものです。温度を変えるだけで回収できるので、酵素処理を不要とするのが特徴で、スキャフォールドを使用しない組織構築法の1つです。
細胞シート工学も非常に面白い手法ですので、改めてご紹介します。
井藤先生は温度ではなく磁力によって細胞を回収している点が異なります。
細胞間結合にデスモソームが観察されたことから、細胞は磁力で凝集するだけでなく、接着タンパク質を介して結合していることがわかりました。
磁力を解除すれば、培養基材面から細胞が遊離して回収できるので、非常に面白いなあと思った技術です。
ただし、マグネット3Dの発明者ソウザは、この手法は細胞シートがディッシュ底部で成長するため、真の三次元培養ではないとしています。
まとめ
このほかにも、再生医療では外部磁場が使われています。
たとえば、関節疾患である関節軟骨欠損患者を対象とした細胞移植治療では、外部磁場で磁性化した細胞の位置をコントロールし、損傷部へ集積させる方法が用いられています。すでに動物モデルで組織再生の有効性が確認されています1)。
同じく関節軟骨欠損ラットを対象とした実験で、磁性化したiPS細胞を移植したところ、iPS細胞の多能性が磁性化によって失われておらず、集積され、軟骨も再生されました2)。
体内への細胞移植でも外部磁場を使う方法(磁気ターゲティング)が使われていますね。
磁気ターゲティング技術は、三次元培養だけでなく細胞移植治療においても増えてきそうですね。
グライナーの技術も、伊藤先生のMCLも非常に興味深いです。来月の再生医療展で最新動向をうかがってきます。
【参考】
特表2013-505728(細胞を磁性化するための材料及び磁気操作)
https://3dcellculture.gbo.com/publications/#!/products
1)再生医療実現拠点ネットワークプログラム研究開発課題評価(平成29年度中間・事後評価)評価報告書
※アイキャッチ画像の出典:Greiner Bio-One
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