【タフツ大学】3Dプリンタ製カプセルで腸内細菌を効率的に採取【マイクロバイオームと疾患の関わりを解明する推進力に】
腸内細菌の特性を知るツールとして、3Dプリンタを使った細菌採取カプセルがタフツ大学の研究チームより開発されました。
このカプセルを経口摂取するだけで、腸内細菌を採取し、腸内細菌の個体数などを確認できます。
腸内細菌は、性格や肥満に関係するだけでなく、疾患にも関わるものなのですよね。
近年の事例としては、がん研有明病院の原英二先生が発見した、がんを引き起こす腸内細菌「アリアケ菌」がありますね。
原先生は患者の便からアリアケ菌の発見にいたっていますが、便から腸内細菌を見つける方法には正確性・効率面において限界がありました。
今回ご紹介するのは、便からではなく、カプセルを経口摂取するだけで、腸内細菌を採取する方法です。このカプセルの製造に3Dプリンタが使われました。
目次
腸内細菌を採取するカプセルの製造に3Dプリンタを利用
腸内細菌の理解は、マイクロバイオームに関連する疾患や身体の状態の解明につながります。
そこで開発されたのが、3Dプリンタを利用したカプセル。
このカプセルにより、さまざまな腸内細菌が健康・疾患においてどのような役割をもっているか、理解することができます。
これまでは、腸内細菌の個体数を確認するために、糞便から抽出したDNAや代謝産物を解析していましたが、正確性・効率面において限界がありました。さまざまな部位にいる細菌に関する情報は、わずかしか得られなかったのです。
タフツ大学が開発したカプセルは、経口摂取するだけで、バッテリー不要かつ非侵襲的であるのが特徴です。
このカプセルはブタ・サルでテストされていますが、ヒトでの使用はこれからです。
3Dプリントされたカプセルの特徴
このカプセルの特徴は次のとおり。
- 非侵襲的な方法
- バッテリー不要
- 使う化学物質は塩のみ
- 外部からカプセルの位置を決められる
- 腸の細菌だけを調べられる
少し詳しくみていきます。
細菌がトラップされる仕組みは「浸透圧」
カプセルの全体像は次のとおりです。
ポイントを先にまとめます。
カプセルの下部分が浸透圧をつくりだす
👇
カプセルの上部分(らせん部分)で細菌をつかまえる
カプセルの上部で細菌がトラップされます。細菌をトラップする仕組みは、浸透圧を利用しています。
カプセルの底部分には塩があるため濃度差が生じ、浸透圧が発生します。水がカプセルの上部分から底部分に向かって流れていく時、細菌も一緒にカプセルの中に入り込みます。
カプセルの中間部には半透膜があるため、大きな細菌は半透膜を通過できず、細菌がカプセルの上部分にトラップされる仕組みです。
浸透圧をつくりだすのは、細菌をつかまえるため、というわけですね。
腸の細菌を選定してつかまえられる理由
このカプセルは、胃ではなく腸にいる細菌をつかまえられます。
理由は、カプセルの表面に特殊なコーティングが施されているからです。
中性またはアルカリ性の環境下ではコーティングは溶け、酸性環境の胃ではコーティングは溶けません。ですので、胃にいる細菌を捕まえない仕組みになっています。
酸性(胃)➡コーティングは溶けない➡細菌はカプセル内に入ってこない
中性・アルカリ性(腸)➡コーティングが溶ける➡細菌がカプセル内に入ってくる
使用するポリマーを変えることで、コーティングの溶解特性をコントロールすることも可能です。
外部からカプセルを位置決めできる理由
ずばり磁石を搭載しています。
外部から磁石を利用して、消化管の特定部位にカプセルを固定させることができます。
磁石がないと、消化管のいろいろな場所にいる細菌を採取してしまいますよね。磁石を搭載しているために、腸内の特定の場所にいる細菌をつかまえることができます。
写真は、外部磁石をつかってカプセルの位置を変えている様子を示しています。
製造に光造形の3Dプリンタ「Form2」を使用
カプセルの頭部と底部の部分は、3Dプリンター「Form2」でつくっています。
ちなみに高温に耐性のあるレジンを使っているようです。
3Dプリンタ製カプセルの体内での挙動
①経口摂取する
②胃ではコーティングは溶けず、そのまま通過
③小腸でコーティングがすべて溶け、細菌の採取をスタート
④蠕動運動によって体外に排出される
カプセルにある緑色のマーカーは、体外に排出された後、便の中から探し出しやすくするためにつけられています。
下記写真は苦手な方がいるかもしれませんが、実際にブタの腸を通過中のカプセルを示した写真です。蠕動運動を模倣した蠕動運動ポンプで、カプセルが排出されるのを確認しています。
このカプセルを使うことで、さまざまな腸内細菌が健康・疾患においてどのような役割をもっているか、理解するのに役立ちとされています。
まとめると、
身体に負担のかからないカプセルを使用し、
浸透圧の原理で細菌を効率的にトラップし、
蠕動運動を利用して、排泄させて、
細菌を効率的に採取する。
ということですね。
このカプセルを利用して、身体の状態や、疾患に腸内細菌がどのように関わっているか、研究がさらに進みそうですね。
※アイキャッチ画像の出典:タフツ大学
【参考】
Ingestible Osmotic Pill for In-vivo Sampling of Gut Microbiome
Ingestible Osmotic Pill for In-vivo Sampling of Gut Microbiome (Accepted Article)
Tufts University develops 3D printed pill that can help create treatments for intestinal diseases
ヤクルト中央研究所・腸内フローラ②:腸内フローラと健康との関わり