【中国】レボテック社・人工血管用バイオプリンタの技術を紹介
今回は中国のバイオプリンティング企業【レボテック(藍光英諾)】の技術をご紹介します。
ご紹介する特許は、3Dバイオプリンティングによる人工血管の製造方法。
公開番号:CN104146794A
レボテックの人工血管開発プロジェクトが863計画に追加されたのは2014年。
その中心人物の1人が、周恵興氏。今回紹介する特許の発明者です。
北京建築大学に所属する周恵興氏の研究テーマの1つは3Dプリンティング。
レボテックは863計画に承認された人工血管プロジェクトについて、予定された3年を前倒しして、わずか1年半で人工血管のサルへの移植に成功しています。
脂肪組織由来間葉系幹細胞を使ったバイオインクで作製した人工血管を、アカゲザル体内の腹部大動脈の約2cmの血管と置換したところ、術後1ヵ月に、人工血管がアカゲザル自身の腹部大動脈と融合しました。
※2016年時点での情報です。
その作製方法は、従来の方法と異なる、興味深いものでした。
今回は、レボテックの人工血管用バイオプリンタ―の仕組みをご紹介します。
【中国レボテック】人工血管用バイオプリンタ-の原理
✔【これまで】人工血管のバイオプリンティング
明細書には、人工血管のバイオプリンティングとして、次の2つが紹介されています。
1つ目は、一層一層押し出して、最終的に血管を構成する部分だけを残す方法。
明細書では詳しく書かれていませんが、上図で◎部分が血管となり、〇部分は温度変化などで取り除ける成分でできている思います。
印刷した後のイメージはこんな感じ👇
血管以外の部分が流動化して除去され、血管だけが残るのではないかと思います。
この方法では、長い血管を作ることが難しく、造形途中に重力による影響を避けられません。
2つ目は、血管を縦方向に積層していく方法。
切られたたくあんを並べてもとの大根に戻すイメージです。明細書によると、この方法では人工血管の細胞分布を正確にコントロールできないとのこと。
また、上記のいずれにも共通するのが、プリント速度が遅いことです。
バイオプリンティングは「生きた細胞」を扱うため、プリント速度が遅いと、細胞の機能を損なう恐れがあります。
上記どちらの方法も、人工血管の部位によって、細胞が受ける影響が異なりますね。下方の細胞と、上方の細胞とでは、受ける物理的な影響が違います。
レボテックが開発したバイオプリンタは、血管の受ける影響が部位によって変わらない仕組みになっています。
※この特許が出されてから、新しい人工血管の作製方法が報告されていますが、ここでは割愛します。
✔レボテックバイオプリンタ-の動作原理
下のように、ロッドを回転させて、回転するロッドにバイオインクを積層していきます。
プリントのメカニズム
ロッド(3)が回転
ノズル(5)はX軸方向に移動
2つの動きが組み合わさることで、XYZ軸方向のプリントを実現し、回転ロッドにバイオインクが押し出されていく仕組みです。
回転ロッドの大きさと長さは、血管の形状や大きさに合わせて設計可能です。つまり、大きさや長さを変えられます。
回転ロッドの動力には、サーボモータ、ステッピングモータを使用しています。
具体的な作製方法は次のとおり。
①回転ロッドをモデリング(望みのサイズ・長さにモデリング可能)
②回転ロッドを製造(積層造形、切削加工などで)
③回転ロッド表面に熱可逆性ハイドロゲルを塗布
④③の回転ロッドを血管バイオプリンタに装着
⑤ノズルからバイオインクが回転ロッド表面に吐出され、回転ロッドに一定の厚みをもった血管組織が形成される
➡プリントが完了したら、培養して、人工血管となります。
①~③までが、バイオプリンタ装着前のプロセスで、
④~⑤が、バイオプリンタ装着後のプロセスですね。
回転ロッドは生体適合性材料で作られており、回転ロッド表面はまず熱可逆性ハイドロゲルでコーティングされ、その上にバイオインクが積層されていきます。
これは、回転ロッドに直接バイオインクを積層させると、回転ロッドが人工血管に機械的な影響を及ぼしたり、毒性を生じたりするのを避けるためかなと思います。
明細書には書かれていませんが、人工血管のプリントが完了したら、温度を上げてハイドロゲル部分を流して、人工血管だけが残る仕組みのはずです。
プリンタ方式は、インクジェット方式、押出し方式、レーザー方式でOKです。
次に、人工血管となるバイオインクについて補足します。
使用するバイオインクは次の2種類です。
●内皮細胞インク
●平滑筋細胞インク
まず、内皮細胞インクが積層されて、次に平滑筋細胞インクが積層されます。
これは血管の構造を考えるとよくわかります。
内膜は内皮細胞、中膜は平滑筋細胞でできていますね。
そして、プリントした血管組織と回転ロッドを一緒にインキュベーターに入れ、成長因子を加えて培養します。
レボテックの人工血管バイオプリンタ-がこれまでと違うポイント
●回転ロッドの設計を変えることで、異なる長さ・大きさの血管を作製できる
●血管は重力の影響を受けない、受けたとしても影響は小さい
●血管は変形しにくい
●回転ロッドを使用するため、印刷速度を上げられる
(バイオプリンティング特有のニーズを満たせる)
●ロッドの形状を変えることで、複雑な人工血管も作れる
今回ご紹介した特許は、2014年に出願されてものです。
この動画で紹介されているバイオプリンタは、その改良版のようです。
注目の企業ですね。
今回紹介した発明者・周恵興氏のほか、もう1人のキーパーソンは四川大学再生医学研究センター主任の康裕建氏です。
人工血管の開発は、(私が把握している限りでは)国内では佐賀大学の中山功一先生、3Dプリンティング技術を使わない手法では、国立循環器病センターの中山泰秀先生がいらっしゃいますね。(ほかにもいらっしゃるはずです)。
今後も国内外の人工血管の開発動向について、ご紹介していきます。
個人的な課題としては、もっと勉強しなければと反省しました(汗)
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