転写因子、転写調節因子、基本転写因子の違いは何?
転写因子、転写調節因子、基本転写因子・・・・この違いは一体なんだろう?
今回はこの疑問にお答えします。
遺伝子発現の調節で登場する言葉ですが、ようするにどういうことなんだろう?と私は混乱しました。
3者の関係をまとめたのが下記のマインドマップです。これを見てわかる方は本文を見なくてOKです。
複数の権威ある教科書を確認してまとめたものです(参考にした教科書は記事の最後に記載)。
そもそも転写因子はなにかというと、DNAに結合するタンパク質です。
転写因子の分類は大きく3つありますが、その2つが転写調節因子、基本転写因子です。
転写調節因子は、高校の教科書では「調節タンパク質」と呼ばれます。
本記事の結論を先にまとめておきます。
違いを理解するポイント
【転写調節因子と基本転写因子の違い】
①真核生物・原核生物どちらにもあるか
➡転写調節因子は真核生物・原核生物どちらにもある。基本転写因子は真核生物だけ。
②結合する部位
➡転写調節因子は調節配列に、基本転写因子はTATAボックスに結合する
③働き
✔転写調節因子:遺伝子の発現を調節する(スイッチのオン・オフ)
✔基本転写因子:RNAポリメラーゼがプロモーターに結合するのを助け、DNA鎖をほどく
※時系列としては、転写調節因子の結合が先。
1つずつみていきます。
もし基本転写因子を重点的に確認したい場合はこちらの記事をご覧ください。
>>>真核細胞の転写における基本転写因子の働きをわかりやすく解説
✔違い①真核生物と原核生物いずれにもあるか
転写調節因子と基本転写因子は名前が似ていることが混乱の原因ですが、大きな違いは、
転写調節因子は原核生物にも真核生物にもある
基本転写因子は真核生物にだけある
ことです。
イメージとしてはこんな感じでしょうか?
どちらも転写に必要なタンパク質ですが、転写調節因子はドーンとしたイメージ。転写調節因子がなかったら、基本転写因子は働きを発揮できません。
アクチベーター、リプレッサーなどいろいろな言葉が出てきて混乱しますが、
転写を促進するのが➡アクチベーター
転写を抑制するのが➡リプレッサー
いずれも転写調節因子であることに変わりはありません。
✔違い②結合する場所
転写調節因子は調節配列に結合します。
基本転写因子はプロモーター領域のTATAボックスに結合します。
時系列では、(真核生物の場合)転写調節因子の結合が先に起こります。
真核生物では、転写調節因子が調節配列に結合しなければ、基本転写因子は働きを発揮できません。
わかりづらいので図解します。
下記のように、DNAはヒストンに巻き付いてヌクレオソームを形成し、これが集合したのをクロマチンといいます。
このように、DNAはヌクレオソームの中に組み込まれていますので、基本転写因子がプロモーターに結合するだけでは不十分なのです。
クロマチンをほぐして、TATAボックスを露出させて、基本転写因子が結合しやすいように働きかけるのが転写調節因子です。
下の通り、転写調節因子が結合すると、クロマチン構造が変化し、TATAボックスが露出するため、基本転写因子がTATAボックスに結合しやすくなります。こうして、転写開始に必要なRNAポリメラーゼも結合できるわけです。
ここで、調節配列の概念がとてもわかりづらく感じましたので、補足しておきます。
✔調節配列(regulatory DNA sequence)について補足
調節配列は、遺伝子の発現を制御するDNA配列で、遺伝子スイッチのオン・オフに必要なものです。具体例としては、プロモーター、エンハンサー、サイレンサー、オペレーターなどがあります。
調節配列に転写調節因子が結合することが、遺伝子スイッチのオン・オフになります。
教科書と研究者とで使われる用語が異なり、調べてみると、英語のregulatory DNA sequenceに相当する訳語には次のものがありました。
●調節DNA
●調節配列
●制御配列
●転写制御領域 など
本記事では調節配列で統一しています。
いくつか海外の教科書をみても、調節配列(調節DNA)の具体例がわかりづらかったのですが、「マッキー生化学」に、オペレーターも制御配列であることが明記されていました。
※オペレーターとは、原核生物の転写単位であるオペロンに含まれる配列のことをいいます。
調節配列とは、転写調節因子が結合し、遺伝子スイッチのオン・オフを調節する塩基配列
と広く理解しておくのがよさそうです。
つまり、調節配列は真核生物、原核生物どちらにも存在するものですね。
真核生物の場合は、こんな感じ。
✔違い③働き
基本転写因子は真核生物特有のものですので、違いを比較するのはおかしいのですが、一応まとめておきます。
次のとおりです。
転写調節因子:遺伝子の発現を調節する(スイッチのオン・オフ)
基本転写因子:RNAポリメラーゼがプロモーターに結合するのを助け、DNA鎖をほどく
(真核生物の場合)転写調節因子のより詳しい働き方は、
①RNAポリメラーゼと転写基本因子が集合するのを助ける
②プロモーター領域のクロマチン構造を変化させ、基本転写因子がTATAボックスに結合しやすいように助ける
②は前半で説明したとおりです。
このようにみると、転写調節因子と基本転写因子の関係はこんな感じかなと思います。
この図はどの生物にあるかにフォーカスして関係を図解したもの。別の視点から考えれば、ほかの表し方もあると思います。
原核生物と真核生物での遺伝子発現の違いについては、別の記事でまとめたいと思います。
もっとバイオを勉強して、よりわかりやすい記事を書けるようにがんばります。
【参考】
カラー図解 アメリカ版 大学生物学の教科書 第2巻 分子遺伝学 (ブルーバックス)
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