CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)の仕組みをわかりやすく解説
CRISPRというゲノム編集技術を耳にする機会が増えました。
CRISPRについて調べようにも、さまざまな専門用語で理解しづらい・・・と思いませんか?
今回は、必要最低限の単語を使って、CRISPRをシンプルに解説します。
仕組みの全体像をつかむヒントになればうれしいです。
今回のキーワード
ガイドRNA(sgRNA)
クリスパーRNA(crRNA)
トレーサーRNA(tracrRNA)
Cas9(キャスナイン)
回文配列/スペーサー配列/反復配列(リピート配列)
目次
CRISPRの基本構造
CRISPRとは、狙ったDNA配列を正確に切り貼りする技術です。
とてもシンプルに説明すると、次の2つの要素から構成されています。
CRISPRの構成要素
ハサミ + ガイド
CRISPRが行うのは2つのステップ
●探して
●切断します
探し役は、ガイドRNA。
カット役は、Cas9(キャスナイン)。Cas9はハサミですね。
両者の働きをイメージ図にするとこんな感じ。
探したい情報が書かれたチケットをもとに、DNAの塩基配列の中から同じ配列を探します。
チケットを持ったハサミが、チケットと同じ塩基配列を見つけると、その塩基配列をカットします。ここでチケットがガイドRNA、ハサミがCas9です。
ガイドRNAは敵の配列を持っていることになります。
上記のように、CRISPRは、ガイドRNAとCas9が合体してコラボレーションして、狙った配列を探し出して切断します。
CRISPRは細菌が持つ「獲得免疫」システム
そもそもCRISPRってなにか?というと、
細菌がウイルスの侵入に対抗するための免疫システムです。
CRISPRは自然界にもとから存在する仕組みなのです。
それを実験室で再現できるようにしたのが、ゲノム編集技術としてのCRISPRです。
ここを分けて考えないと、いろいろなRNAが登場して混乱してしまいます(わたしは混乱しました)。
私たちの身体が、過去に身体に侵入した病原体を覚えておいて、2度目に侵入してきたときに直ちにやっつけるように、細菌も、侵入してきたウイルスの遺伝子を切り刻み、自分のDNAに組み込んで記憶しています。
CRISPRは私たちがもっている獲得免疫に相当するわけですね。
細菌に侵入するウイルスのことをファージといいます。
細菌が記憶している、さまざまなファージの塩基配列はスペーサー配列と呼ばれます。
スペーサー配列
敵の情報を記憶している保管庫
CRISPRの配列にはある特徴があります。
それは、敵の配列情報を記憶したスペーサー配列の間に、反復配列(リピートともいいます)という同じ配列があることです。
スペーサー配列=細菌が記憶している敵の塩基配列
反復配列=スペーサー配列の間にある同じ配列
CRISPR=スペーサー配列 + 反復配列 +スペーサー配列 +反復配列 + ・・・・
となっているわけです。
ちょっと補足しておくと、反復配列は、回文配列を含んでいます。
回文配列というのは、
片方から読んだ鎖と、それと対をなす鎖を逆から読んだ場合が一致する配列をいいます。
下の例では、
片方から読んだ鎖=CTAG・・・・・①
対をなす鎖=GATC・・・・・・・・②
対をなす鎖を逆から読む=CTAG・・③
➡①=③ですよね。
このような配列を回文配列といいます。
CRISPRの仕組みをもう少し詳しく
CRISPRの仕組みをもう少し詳しく解説します。
先ほど、CRISPRはガイドRNAとCas9がコラボして、狙った配列を探し出してカットする、と書きました。
ガイドRNAは一般に、sgRNAと表記されます。
おさらい
ガイドRNA=敵の配列情報をもったチケット
Cas9=ハサミ
ガイドRNA(sgRNA)は、2つのRNAをつないだ呼び名です。
これを頭においてもらって、まず自然界におけるCRISPRの仕組みを簡単に説明します。
細菌、古細菌など自然界のCRISPRの仕組みは次のとおりです。
①過去に侵入したファージCが再度侵入する
②CRISPR領域のうち、過去に感染したファージCの配列を持つ領域が転写されて、クリスパーRNA(crRNA)が合成される
※クリスパーRNA(crRNA)は敵(ファージC)とペアになる配列を持っている
③クリスパーRNA(crRNA)とトレーサーRNA(tracrRNA)が複合体をつくり、クリスパーRNAと同じ配列をもつ場所までCas9をまでガイド
※トレーサーRNA(tracrRNA)は別の配列から転写されてできる
④クリスパーRNA(crRNA)とペアになる塩基配列をCas9が切断
上記の通り、細菌では2つのRNAとタンパク質(Cas9)がコラボして働きます。
これを人工的に使いやすくするために、クリスパーRNAとトレーサーRNAを1本につなげました。
これがガイドRNAです。
人工CRISPRで使うガイドRNA(sgRNA)
=クリスパーRNA(crRNA)とトレーサーRNA(tracrRNA)を組み合わせたもの
CRISPRがすごいのは、
クリスパーRNAの配列を人工的に設計することで、狙ったところでDNAを切断できることです。
つまり、チケットに書く内容を変えるだけで、ハサミがそれをもとに望みの場所を切断してくれるのです。
CRISPRを発表したダウドナ、シャルパンティエは、2つのRNAをつないだガイドRNAとCas9を組み合わせ、狙った配列を切断できる実験も成功させています。
とても興味深い技術ですので、CRISPRについては今後も記事で紹介していきますね。
【参考】
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